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 米国とカナダの宇宙飛行士4人が搭乗した米航空宇宙局(NASA)の宇宙船「オリオン」が月を周回する10日間の飛行を終え、地球に帰還した。60年近く前の米アポロ計画以来となる月面有人着陸へとつながる試みが成功裏に終わったことに拍手を送りたい。

 米国が主導し、日本や欧州などが参加する国際的な月探査「アルテミス計画」の一環である。燃料漏れなどで打ち上げが複数回延期されたものの、飛行は順調だった。6日目には月の裏側に到達し、人類が地球から最も遠ざかる距離を約6600キロ更新した。月の地平線から昇る「地球の出」なども観測した。

 アルテミス計画は2028年の有人月面着陸と、その先の基地建設を目指している。将来的には火星探査も見据える。22年には無人の宇宙船が月周回飛行を成功させた。今回は有人で地球と月との間を安全に往復できるのか確認することが狙いだった。着実な進展に期待が膨らむ。

 計画の重要な使命が、資源採掘やエネルギー生産の拠点をつくることだ。月の地下や地表にあるとされる氷から、飲料となる水、酸素、水素を取り出すことができれば、月面での長期滞在が可能になる。土壌にはレアアース(希土類)などが含まれることも判明している。

 日本も技術面で協力している。トヨタ自動車などが開発中の探査車は、飛行士が宇宙服を着ずに移動できるという。その見返りとして、日本人宇宙飛行士の月面着陸も2回予定されている。多国間の協力や民間企業との連携で成功につなげたい。

 懸念されるのが、宇宙や月の開発を巡る大国の覇権争いである。

 冷戦時代のアポロ計画は、背景に米国とソ連(当時)のせめぎ合いがあった。1967年に発効し、世界の主要国が批准する「宇宙条約」は月や宇宙空間が国家の領有対象とはならないことを定める。69年に米国のアポロ11号が人類初の有人月面着陸を成功させたが、両国は法秩序の下で競い合ってきた。

 旧ソ連に代わるライバルとなる中国は2019年に世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させ、30年までの有人月面着陸を目標に掲げている。宇宙開発は軍事技術とも密接に関わり、最初に基地を設けた側が資源開発などの主導権を握り得る。ロシアを巻き込んで月の拠点化を目指す中国と米国が先行争いを繰り広げるのも、そこに理由がある。

 米国第一主義を唱えるトランプ政権も懸念材料だ。他国との連携を軽視すれば、計画は停滞しかねない。各国が国際協調の意義を再確認するとともに、宇宙の平和利用をうたう条約の効力を高める必要がある。