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 陸上自衛官が12日に行われた自民党大会で登壇し、国歌を歌ったことに批判が強まっている。

 自衛隊法61条は選挙権の行使を除き、隊員の政治的行為を厳しく制限する。現役の隊員が特定政党の行事に出席すること自体、政治的中立性に疑義を抱かせる軽率な行為だ。自民党や防衛省、自衛隊は猛省せねばならない。

 登壇したのは陸上自衛隊の中央音楽隊員で、「陸自が誇るソプラノ歌手」と紹介され、制服を着用しリード役として斉唱した。上司の音楽隊副隊長も同行していた。

 自衛隊法が隊員の政治的行為を制限するのは、戦前に軍部が政治に介入して無謀な戦争へと突き進み、国を破滅に導いたことへの反省に立っている。実力組織である自衛隊が特定の党派に肩入れすれば、政治が軍事をコントロールする「文民統制」が揺らぎかねない。

 野党が「法令違反の疑いがある」と批判するのは当然だろう。自民党は党大会の演出を企画した業者から隊員の推薦があったと釈明した。業者が防衛省に問い合わせ、「法に抵触しない」との回答を得たという。高市早苗首相(自民党総裁)は「特定政党への支援を呼びかけたのではなく、法的に問題はない」「私人として歌唱した」などと主張した。

 そもそも、制服姿の隊員を「私人」と呼ぶのは無理がある。首相は自衛隊の最高指揮官であり、監督責任は免れない。自民党幹部から問題視する声は上がらなかったのか。

 防衛省や自衛隊の認識も甘すぎる。小泉進次郎防衛相は自身を含む防衛省幹部が隊員の参加を事前に知らなかったとし、報告体制を改善すると述べた。小泉氏は「情報が上がっていれば別の判断もあり得た」と述べたが、情報共有の問題に論点をすり替える発言だ。隊員との記念撮影を交流サイト(SNS)に投稿するなどトップとしての自覚に欠ける。

 自民党は憲法9条への自衛隊の明記を含む改憲項目をまとめている。党大会で高市首相は「時は来た」と改憲への強い意欲を示し、来春までに見込む次の党大会までに発議のめどをつけたいと強調した。

 極めて政治的な場における隊員の出席と国歌歌唱は、自衛隊が特定の政党の党勢拡大に協力したと受け取られても仕方があるまい。衆院で改憲発議に必要な3分の2を超える議席を持つ巨大与党のおごりが透けて見える。災害時の被災地派遣などに取り組み、自衛隊が地道に積み上げてきた国民からの信頼も損なわれかねないことを肝に銘じるべきだ。

 自民党と防衛省の双方は違法性を含め検証し、再発防止に努める必要がある。