エッセー・評論

上海発 金鋭のモノクロフォトコラム

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腹ごしらえ
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 上海に移り住んだ20年前。中国の改革・開放路線の恩恵を享受するように、街は成長、発展の真っただ中にあった。ただ、交通インフラの整備はまだ緒に就いたばかりで、高速道路は建設途中。地下鉄も走っていなかった。路線バスはあるにはあったが、私を含めてビジネスマンたちの移動はもっぱらタクシーだった。雨の日ともなれば、壮絶な奪い合いが繰り広げられたものである。

 運転手のマナー、接客態度は今でこそ改善されたが、当時、タクシーに乗ることは私にとって「闘い」を意味していた。乗車拒否されないか。こちらが地理に不案内なのをいいことに、遠回りされないか。メーターを倒さないで走る運転手もざらにいた。全く気が抜けなかった。

マナーが格段に向上した背景には、スマートフォンのタクシー配車アプリの普及などもあるだろう。運転手はこのアプリでお客さんから評価を受ける。低ければ次は呼んでもらえないかもしれない。改革・開放はこうした厳しい競争原理を上海のタクシー業界にももたらした。

 今もタクシーにはよく乗る。楽しみの一つに運転手とのおしゃべりがある。日本と比べ、彼らは本当に話好きだ。国の経済状況を知るには、酒場かタクシーで話すのが手っ取り早い、とも言われるが、会話を通してメディアが伝えないような中国、中国人たちの真の姿を垣間見ることもできる。

 「お客さん、どこの人だい?」

 「日本生まれ、日本育ちの華僑だよ」

 上海暮らしが20年を超えても日本訛りは抜けないようで、大抵はそんなやりとりから始まる。

 こちらから日中関係の話題を振ることも少なくない。中国人の本音を何とか聞き出したい、との衝動に駆られるからだろうか。

 ある運転手さんとはこんな会話になった。

 私  「日本と中国の関係が良くないね」

 運転手「日本は素晴らしい国だ。喧嘩はしたくない。しかし中国には中国の考え方というものがある」

 私  「もめていることも多いからね」

 運転手「もめるのはいいんだ。思っていることをお互い言い合えばいいんだ。一番良くないのは無関心だよ。お隣の国同士じゃないか」

 日本のことを悪く言う運転手さんもいるが、こちらが考えているよりも日本に親しみを持っている人は多い。政治と庶民の暮らしは別なんだな。そんなふうに感じることもしばしばある。

 ほかに必ずする質問が家族のことだ。

 「運転手さんは結婚しているの?子供はいるの?」

 「田舎に子供がいるよ。なかなか会えなくてね。春節の時に会うぐらいだよ」

 タクシー運転手の仕事は長時間で激務だ。一勤一休で1日10時間働くことも珍しくないという。田舎から出稼ぎに来ている人の中には、家族や子供と会うのは年数回だけというケースも。寂しさからだろうか、家族への感謝の気持ちや子供への思いを延々と聞かされることだってある。

 おしゃべりの最後に決まって尋ねるのは「あなたの夢は何?」。圧倒的に多いのが家族旅行だ。

 「家族を養うために働きづめで頑張っているんだよ。最後はみんなで旅行したいね」

2017/1/18

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