エッセー・評論

上海発 金鋭のモノクロフォトコラム

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路地裏の情景
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路地裏の情景

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路地裏の情景

 祖国中国を初めて訪れたのは小学生のころだった。もう40年以上も前のことだ。叔父と一緒に北京をはじめ、いくつかの都市を訪れたが、中でも上海の印象は強烈だった。道行く人はみんな人民服。何十台もの自転車が行き交う。街灯が少ないため夜になると街は闇に包まれた。暗くて灰色。小学生の私にとって上海はそんなイメージだった。ただ、そこに暮らす人たちの素朴さ、エネルギーには驚かされた。声が大きく、何に対しても前向きで、とてつもないパワーを感じた。

 改革開放路線が打ち出され、上海をはじめ中国はその後、驚くほどの変貌を遂げた。経済成長とともに、街並みも大きく変わった。高速道路や地下鉄などインフラの整備が進んだ上海では、見上げるような高層ビルが林立する。1カ月もこの街を離れると、風景が一変するとも言われた。

 一方で変わらないものもある。欧州の街並みを思わせる「外灘」や明代の庭園「豫園」は、上海を訪れる外国人観光客が必ずと言っていいほど足を運ぶ人気スポットだ。私も写真を撮りにしばしば訪れる。向かうのは、開発の手が及んでいない路地裏である。外に突き出た物干し竿に並ぶ洗濯物。ご近所同士で交わす挨拶。屋外に椅子を並べ話し込む姿も。その周りで子供達が遊ぶ。観光地ではあるものの昔からそこで暮らしている人たちの息遣い、温もり、大らかさやエネルギー、パワーをひしひしと感じる。レンズを向けるのは、それらを写真で伝えたいと思うからだ。

 そんな路地裏も近代化の波が押し寄せてきている。老朽化した建物や施設は、ここで暮らす人々にとっては、とても快適とは言えない。再開発、立ち退きといった問題が目の前に迫る。 「時代の流れさ。仕方ない。暮らしがよくなるのであればそれはそれでね…」と住人の年配男性。ここで過ごしてきた歳月を振り返るようにこう話した。「俺はここで生まれてここで育ったんだ。それだけは変わらないよ」

 そう言えば、上海の路地裏は子供の頃、神戸で目にしていた光景ともどこか重なる。

 神戸に戻るとモトコー(元町高架通商店街)に写真を撮りに行くのは、そのためだろうか。阪神・淡路大震災にも耐えた商店街。今やシャッターの閉まった店舗も少なくないが、漂う哀愁に引き付けられる。カメラを手に歩いていると、上海の路地裏で出会った男性の表情が浮かんだ。

 街が変わろうともそこで暮らす人たちの息遣いは変わらない。今を生きる人たちを撮り続けたい。

2019/5/10

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