エッセー・評論

上海発 金鋭のモノクロフォトコラム

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充足感
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 旧暦では今年は2月15日が大晦日、16日が元旦に当たる。出稼ぎを含め都市部に人口が集中している中国だが、春節のこの時期は大半の人が帰省したり、旅行に出かけたりする。「春運」と呼ばれ、中国国内にとどまらず、全世界で30億もの人々が動くとされる。まさに民族大移動である。

 高速鉄道網が広がり、昔に比べて帰省も随分楽にはなった。とはいうものの、春節といえば、今でもお土産の詰まった大きな荷物を抱えた人たちで満員列車が、まず目に浮かぶ。旧正月の風物詩と言ってもいい。

 私の住む上海は逆に、車の往来も少なく、どこかひっそりとした雰囲気だ。お盆休み中の日本のオフィス街とよく似ている。もう一つの風物詩だった爆竹を鳴らしての大騒ぎも今は禁止され、静かに旧正月を迎える。

 この季節になると、ある日本人駐在員のことを思い出す。物流会社の経営幹部だった彼は、中国語こそさほど話さなかったが、現場を、ともに働く中国人従業員を何よりも大切にしていた。上海市内の各営業所を抜き打ちで訪ね、自分の目でその仕事ぶりをチェックし、服装や勤務態度についても機会あるごとに指導していた。

 ある日、訪れた営業所で彼は信じられない光景を目にした。顧客に届ける荷物を従業員が足を使って動かしたり、放り投げたりしていた。

 「なぜ、大事な荷物をそんな風にぞんざいに扱うんだ」と厳しく問い詰めた。

 従業員が言い返した。

 「お客さんに届ける時はちゃんとしますが、今は積み上げているだけ。別に構わないじゃないですか」。

 彼は語気を強め問いただした。

 「なぜ、お客様の荷物を大事に扱わないといけないのか分かるか?」

 「届ける荷物だからですか?」と従業員。

日ごろ、伝えてきたことが十分理解されていないと感じた彼は、今度は諭すようにこう話しかけた。

 「我々は荷物を運んでいるんじゃない」

 従業員がけげんそうな表情を浮かべたが、構わず彼は続けた。

 「確かに我々はお客様の大事な荷物を預かり、届けている。でも運ぶのは単なる荷物ではない。荷物を届けたいという人の気持ちを運んでいるんだ。だからこそ大切に扱わないといけないんだ」

 大勢の人が動く「春運」。1年ぶり、数年ぶり、いやひょっとして仕事や生活に追われて、もっと長い間、古里に帰れなかった人もいるかもしれない。久しぶりに会う家族。旧正月、春運には様々なドラマがある。親や子供に「会いたい」「届けたい」、そして「喜ぶ顔が見たい」。そういう気持ちは、中国がいかに経済的発展を遂げようとも、ネット網が世界中に張り巡らされようとも変わりはしない。

 古里に届ける抱えきれないほどのお土産も、単なる荷物ではない。家族への気持ち、愛情がぎっしり詰まっているに違いない。

2018/2/14

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