エッセー・評論

上海発 金鋭のモノクロフォトコラム

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刻まれた歳月
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 カメラにはまったのは、今から3年ほど前のことだ。

 きっかけはサラリーマン時代の同期で親友のK。写真家としても活躍する彼と酒を酌み交わしながら、以前から写真に興味があることを伝えると、「それなら思い切って一眼レフを買えば」と返ってきた。それから数日後、人生初の一眼レフカメラを購入した。

 カメラを手に入れたのはいいが、さていったい何を撮ろう。テーマとして頭に浮かんだのが「街と人」だった。

 「写真から伝わる街の雰囲気やそこで暮らす人々の生き様を伝えられれば…」

 おぼろげながらそんな風に思っていた。

 ところが、日本から移り住んで20年以上もたつ、住み慣れた上海の街でも、いざ写真を撮るとなると、どこへ行けばよいのか正直分からなかった。

 そこでまずは、上海随一の観光スポット「外灘(ワイタン)」へと向かった。19世紀後半から20世紀初頭にかけ「租界」が置かれ、洋風建築が残る一角は、中国全土から、そして海外から大勢の観光客が集まり、休日ともなると身動きが取れないほどごった返す。 

 人の多さやそれによって生まれるエネルギー…。中国を象徴するかのようで、それはそれでとても魅力的である。ただ、そうした光景やパワーを見たり、感じたり、写真で切り取ったりできる街やスポットはほかにもたくさんある。求めたのは、そこで暮らす人々の息づかいのようなものだ。

 ある日、早朝の外灘を訪れてみると、普段の喧噪とは全く異なる光景に遭遇した。散歩をする夫婦。ジョギングに汗を流す出勤前のビジネスマン。朝日を浴びながら太極拳をしている一団。手作りのたこを揚げている年配の男性。ベンチで肩を寄せ合い語り合う恋人達。ビル群を照らす朝日にレンズを向けるカメラマン…。

 その瞬間を慈しむように、楽しむようにそれぞれの時間が流れている。朝の柔らかい光と外灘のレトロモダンな街並みの中に広がる光景、人々の日常を写真に残したい。そう思った。

 夢中でシャッターを切った。しかし、撮った画像から伝わってくるものはどこか弱々しい。レンズを向けた先に漂う空気やそれこそ息遣いを伝えきれていない。ただ街が、人が写っているだけ。そんな感じだった。

 足りないものは何か?自問してみた。

 それは、レンズの先にいる人々の暮らしや人生の中に入り込み踏み込むような感覚ではないか。街や人から感じる喜怒哀楽を真摯に実直に伝えたかった。

 ただ、その領域に入るのはたやすいことではない。見ず知らずのアマチュアカメラマンに話し掛けてくれる人などまずいない。

 どうすればいい? 

 ふと思いついたのは、日本企業の社員に行う研修で、いつも自分が伝えている言葉だった。

 「尊重と信頼を得るためには現地の社員と雑談をしてください」

 早朝、外灘に集う人たちは、仲間同士、よくおしゃべりをしている。話題は、家族や仕事、趣味から政治、人生観まで幅広い。思い切ってその輪の中に入ってみる。初対面の人と言葉を交わしながらシャッターを押してみると、それまでとは写真とは明らかに違う、豊かな表情をとらえることができたようだった。時にはその人の内面が透けて見えるようなものも。

 被写体と言葉を交わすだけで、私の写真は自分でも見違えるような変化を遂げていった。

2017/8/2

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