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息を引き取る約1週間前の植木則さん。大好きなそばを食べた=豊岡市日高町、リガレッセ(施設提供)
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息を引き取る約1週間前の植木則さん。大好きなそばを食べた=豊岡市日高町、リガレッセ(施設提供)

息を引き取る約1週間前の植木則さん。大好きなそばを食べた=豊岡市日高町、リガレッセ(施設提供)

息を引き取る約1週間前の植木則さん。大好きなそばを食べた=豊岡市日高町、リガレッセ(施設提供)

 豊岡市日高町にある介護施設「リガレッセ」に、どことなく落ち着かない空気が流れていた。ソファでくつろぐ入所者が時々、スタッフが出入りする隅の部屋に目を向ける。

 一息ついた所長の広瀬みのりさん(53)が、私たちに写真を見せてくれた。1週間ほど前に撮ったものだという。車いすに座った高齢の女性が、おわんに口を近づけてそばをすすっている。「ひな祭りの少し前かなあ。おそば、大好きなんですよ」

 写真の女性、植木則(のり)さん(78)は隅の部屋で、静かに人生を終えようとしていた。末期がんで延命治療を拒み、ここにやって来た。

 時間は午後4時になろうとしている。施設を運営する大槻恭子さん(42)が静かに引き戸を開ける。ベッドに横たわる植木さんはこちらを向き、顎を上下させながら口を動かしている。

 「下顎(かがく)呼吸が始まってるからね。遠くないですよ。おしっこも止まってると思う」。大槻さんが今の状況を説明してくれる。痛みを取り除く医療用麻薬を胸の近くに張り、座薬も入れている。息苦しそうに見えるが、大丈夫だろうか。「本人はね、苦しくないんですよ」という大槻さんの言葉にほっとする。

 病院で迎える最期とはかなり違う。植木さんの体に管はなく、心拍数や血圧の状況を映し出すモニターも置かれていない。

 午後5時すぎ、所長の広瀬さんが部屋に入った。そして、植木さんが息を引き取ったのを確認した。

 私たちも部屋に入り、冥福を祈る。枕元のCDプレーヤーから、ゆったりとした音楽が流れている。「人の五感はね、聴覚が最後まで残るらしいの。寂しくないように音楽をかけておいたんです」。広瀬さんがつぶやくように言った。

 死後の処置が静かに始まった。広瀬さんが口に手を入れ、しっかりと丁寧に拭いていく。遺体が腐敗しないように、あばら骨や骨盤が浮き出た体に保冷剤を置く。うっすらと開いていたまぶたを2、3回なでると、すーっと閉じた。

 穏やかな顔つきに変わった。

2019/6/3
 

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