植木則(のり)さんが豊岡市日高町の介護施設「リガレッセ」で息を引き取って、3日が過ぎた。
この日、植木さんに関わったスタッフが思いを語り合うと聞き、私たちは施設を訪ねた。フロアに入ると、植木さんの個室にあったランの鉢植えがテーブルに飾られていた。
リガレッセでは入所者が亡くなると、看護師、介護士らが集まり、気持ちを言葉にしてはき出す。そうすることが、それぞれの心のケアにつながる。施設で「デスカンファレンス(死について語る会議)」と呼ばれる会合だ。
所長の広瀬みのりさん(53)がリビングの椅子でくつろいでいた高齢の女性に、軽く声を掛ける。「今から会議するけど、聞こえないふりしててね」
キッチンの前にスタッフ7人が集まり、テーブルを囲んでいる。広瀬さんが「亡くなった植木さんのデスカンファを始めます」と告げる。ベテラン看護師の安東綾子さん(61)が最初に語り始めた。
植木さんが入所直後、毎日大声で「家に帰る」と訴えていたこと、そしてある日、「もー、しゃあない。抵抗やめる」と言ったことを振り返る。「申し訳ない気持ちになってしまって。無理やり、ここに押し込めているようで」。話しながら、目が潤み始める。
隣に座っていた広瀬さんが、安東さんに「みんなに言ってもいい?」と声を掛けた。うなずく安東さん。すると広瀬さんが「彼女はご主人をがんで亡くしておられるの」と告げた。
安東さんの夫が胃がんで他界したのは、2013年1月のこと。診断が出てからわずか1カ月半後、病院の緩和ケア病棟で最期を迎えた。担当の看護師は広瀬さんだった。
植木さんの死が、身近な人とのつらい別れを思い起こさせる。
「主人が入っていた病室から、氷ノ山が見えていました。亡くなって、あの人が病室から毎日見ていた氷ノ山に登りたいって思ったけど、なかなか行けなかった。2年が過ぎてやっと登れました。途中からは泣き通しでした」
2019/6/6