淡路島・洲本市の幹線道路沿いの古い住宅街に、ホームホスピス「ぬくもりの家 花・花」はある。瓦屋根の2階建て。車1台がぎりぎり入る駐車場。看板がなければ、周りの民家と違いはない。
私たちが初めて「花・花」を訪ねたのは今年2月のことだ。平日のお昼すぎ。キッチン付きのリビングで、入居者の西岡里子さん(98)と原とし子さん(83)が椅子に座って、テレビを見ていた。リビングから見えるところにベッドがあり、寝たきりの増田博さん(92)が眠っている。
西岡さんはパーキンソン病で、手が細かく震える。耳元で話し掛けると、にこっと笑う。相撲が大好きで、御嶽海のファンだ。夫は亡くなり、子どもはいない。
原さんも子どもはなく、漁師だった夫を亡くしている。認知症があり、午前2時ごろに起きたり、時々、眼鏡をティッシュの箱にしまおうとしたりする。
「花・花」は2015年3月にオープンした。理事長の山本美奈子さん(61)は看護師で、訪問看護ステーションの所長も務める。
7人まで入居でき、入居者は医師の往診や訪問看護を利用している。個人の負担は月に15万円ほどだ。
「ほんま? 大丈夫? ありがとう」
午後3時すぎ、山本さんの携帯電話が鳴った。きょうの夜勤者がようやく決まったという。夕方まではスタッフの太田一美さん(37)と権上みゆきさん(59)が入居者の食事を用意したり、トイレに付き添ったりする。夜勤は交代で担当するが、山本さんによると「その日、その日で精いっぱい」らしい。
玄関を入って奥の和室には斉藤多津子さん(85)が住んでいる。多発性骨髄腫の末期で、私たちは「花・花」を訪れると毎回、ベッドに横たわる斉藤さんと短い会話を交わすようになる。
「居心地はどうですか?」
「いいよ」
「家みたい?」
「また違う」
斉藤さんも夫を亡くし、子どもはいない。
西岡さん、原さん、増田さん、斉藤さん。「花・花」には、家で暮らせない事情を抱える人たちが集っている。
2019/6/17