取材班に届いた読者からの手紙やメール、ファクスの中に、5月に家族をみとった経験をつづったものがありました。私たちは2人の読者を訪ねることにしました。
神戸市中央区の女性(70)は5月9日、102歳の母親を亡くしました。手紙には「母は『逝く時は枯れ木が倒れるように』とよく話していました」とつづられています。私たちがうかがうと、女性は後悔の念を口にしました。
9日の明け方、女性はいつものように母親のたんを吸引しようとしました。すると、手で拒否するようなしぐさをしたそうです。しばらくして、母親が口をパクパクとさせたので、たんを取りやすくなりました。後で教えられたのですが、この口の動きは亡くなる間際に見られる「下顎(かがく)呼吸」でした。女性は「吸引で、余計に苦しめてしまったのでは」と心を痛めています。
看護師に「死が近い」と告げられ混乱しながら、母親の耳元で「ありがとうね」と伝えましたが、思い描いていたような穏やかな最期ではなかったそうです。女性は「本当は抱いて、安心させて逝かせたかった」と涙を流しました。
手紙に「母の最期を毎日悔やみ、苦しんでいる」とありました。女性はそんな思いをノートにしたためているそうです。「書くことで気が紛れる気がする」と語っていました。
三木市の女性(63)は、15年ほど一緒に暮らした義母を5月26日、病院でみとりました。
義母は昨年12月に入院しました。年が明け、2月には95歳の誕生日をケーキで祝いました。5月の大型連休も孫やひ孫に囲まれ、うれしそうでした。女性は毎日、病室に足を運びながら夫と葬儀の準備などを進めたそうです。
義母が息を引き取った時のことを「夫と『互いに頑張ったよね』って。つらいけれど、充実感がありました」と振り返ります。葬儀ではお気に入りの着物を着せることができ、ひつぎには義母が裁縫したワンピースやジャケットを納められました。
「命は限られているのだから、死後の準備を先に先に進める方が後悔しない。生きているうちに死後を整えることは、タブーでもなんでもないと思います」。そう話す女性の表情は明るく、晴れやかに見えました。
「死ぬって、怖い?」。私たちが連載のタイトルとした問い掛けにも、さまざまな反応がありました。
「人は死という現実、最強の恐怖に向かって毎日、近づいています」。両親をみとった兵庫県福崎町の男性(64)の手紙には、そう書かれていました。男性は「人生の終活をどのように行ったら良いか、考えて生活している」とも記しています。
兵庫県上郡町の女性(77)は4年前、自宅で夫を見送りました。原稿用紙7枚の手紙の最後を、こう締めくくっています。「十分生かしてもらっているので、今は死ぬのは怖いと思ってませんが、いざ直面するとどうかな?」
「死ぬのは怖いですか?」。私たちも多くの人と語り合ってきました。次回は連載の最終回です。これまでの取材を振り返ります。
2019/6/21