取材は終わりに近づいている。私たち3人は昨年6月に始まったシリーズ「いのちをめぐる物語」で、みとりや終末期の現場に足を運び、死期の迫る患者や家族、医療や介護関係者、宗教者たちと対話を重ねてきた。きょうからスタートさせる最終章を、第一部と同じく「死ぬって、怖い?」のタイトルで届けようと思う。原点に戻ってこの1年間、それぞれが考えてきた「生」と「死」、そして「命」について、書き進めるために。(紺野大樹、中島摩子、田中宏樹)
目の前に神鍋(かんなべ)高原の新緑が広がっている。水が張られた田んぼに青空が映る。新型コロナウイルスの影響で、いつも以上に静かなまちも爽やかな季節を迎えている。
5月中旬、私たちは豊岡市日高町にある介護施設「リガレッセ」を訪れた。シリーズ第一部の取材でお世話になった場所だ。
施設に隣接するカフェ「miso(みそ)」で運営法人の代表理事、大槻恭子さん(43)と向かい合って座る。
初めて大槻さんと会ったときのことを思い出す。
死について取材を始めた私たちがリガレッセに向かったのは、昨年2月半ばのことだ。入所者のみとりも積極的に行うと聞いたからだ。やはり向かい合って話していたとき、ふと大槻さんに問いかけられた。
「死ぬって、怖い?」
大槻さんは「大丈夫。痛くないって」と言ってくれたが、私たちは「怖いです…」としか答えられなかった。
リガレッセでは、入所していた植木則(のり)さん=当時(78)=の死を目の当たりにした。長く独りで暮らし、延命治療を拒否していた女性だ。遺体をきれいにする「エンゼルケア」に立ち会ったときは、初めて見る光景に体がこわばった。
ここ豊岡から東京へ、さらに宮崎、淡路島へ。人のつながりに導かれるようにして私たちの取材が始まった。
◇ ◇
大槻さんのほかにも印象に残っている人や場面、胸に引っかかった言葉がある。
家でのみとりを取り上げた第二部「家に帰ろうよ。」では、病院から小野市の自宅に戻った廣尾(ひろお)すみゑさん=当時(68)=に会う。約束の日に訪ねると、容体が急変していた。「ええ人生やった」と口にし、そのまま私たちの目の前で息を引き取った。
ほかに孤独死や認知症も取り上げ、緩和ケア病棟で逝った人たちに話を聞いた。アジアでいち早く終末期医療の法整備を進めてきた台湾や、安楽死を認めるオランダなど海外にも足を延ばした。
◇ ◇
「無農薬やから、そのまま食べられるよー」
リガレッセの農園を歩く。5月の風が心地よい。大槻さんがイチゴを摘んで渡してくれる。口に放り込むと甘酸っぱい味が広がる。
「どうでしたか? あちこち取材に行ってみて」
問われて、手元の少しくたびれた取材ノートを繰ってみる。各地で聞いた話を書き込み、冊数が増えたノートを。
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