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取材班の部屋に張られた切り抜きには、たくさんの物語が詰まっている(撮影・辰巳直之)
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取材班の部屋に張られた切り抜きには、たくさんの物語が詰まっている(撮影・辰巳直之)

取材班の部屋に張られた切り抜きには、たくさんの物語が詰まっている(撮影・辰巳直之)

取材班の部屋に張られた切り抜きには、たくさんの物語が詰まっている(撮影・辰巳直之)

 私たちは、神戸ハーバーランドにある神戸新聞社11階の一室で、この連載シリーズの原稿を書いてきた。

 部屋の壁には、これまでに掲載された記事の切り抜きが張ってある。今回の記事が157本目、連載の最後となる。なぜ今、「死」をテーマにした物語を届けたいと思ったのか。少し話をしたい。

 新聞やテレビ、週刊誌ではここ数年、「終活」の企画がよく組まれる。人生の終(しま)い方は、今はやりのテーマなのかもしれない。一方で「死」が、どんどん私たちの日常から遠くなっている気がしていた。家で亡くなる人は少なく、病院で逝く人がほとんどだ。

 「命」の終わりを見つめ、考える。それは、生き方を問うことにつながるのではないか-。私たちはそう話し合って、取材を始めた。

     ◇     ◇

 闘病中の人、大切な人を亡くした家族、医療や介護関係者、宗教者…。これまでに500人を超える人たちから話を聞き、言葉を交わした。取材後に亡くなった人も多くいる。残り少ない時間を私たちに分けてくれ、多くの言葉と最期の姿を残してくれた。

 遺族にも繰り返し取材に応じてもらった。亡き人の生涯はとても1回では聞き取れないし、数時間の取材で記事にすることはためらわれた。ゆっくりと時間を重ね、心の底にしまい込んだ言葉を吐き出してくれた人がいる。「誰かに聞いてもらいたかった」という声にも触れた。

 連載シリーズは8部を数える。最終章では、記者3人が連載を書き進める中で出合い、ずっと抱えてきた宿題のようなテーマに向き合った。

 「生ききる」とは、「良い死」とは。死は本当に痛々しいものなのか。そして、私たちなりにたどり着いた考えを記してきた。

 スタートから1年、読者から私たちの元に約350通の手紙やファクス、メールが寄せられている。それぞれに、先立った夫や妻、父や母、そして子どもとの別れがつづられている。闘病中の姿、後悔の念…。日々の暮らしでは、なかなか口にする機会はないけれど、誰かに伝えたいことがたくさんあるのだと感じる。これから少しでも、そうした機会が日常の中に増えることを願う。

 取材を進めながら、新聞社の同僚から肉親の死について聞くこともあった。

 20代の若手記者は6歳で父を亡くし、声も覚えていない。高校時代には母に協力してもらい、友人の前で父が生きているふりをしていたという。

 おなかの中の赤ちゃんを亡くした同僚の話には、うまく返事ができなかった。

     ◇     ◇

 「死ぬって、怖い?」

 取材を始めたばかりの私たちはそう問われ、「怖いです…」としか答えられなかった。今にして思えば、死について何も知らなかった、ほとんど考えてこなかったせいもあるだろう。

 人は必ず死ぬ。その日までどう生きようか。「死」を迎えた時、これまで歩いてきた「生」の輝きをかみしめることができたら-。

 誰もが「いのちをめぐる物語」をつむいでいる。私たちも、あなたも。=おわり=

(紺野大樹、中島摩子、田中宏樹)

★連載「いのちをめぐる物語」はこの夏、神戸新聞総合出版センターから本になる予定です。

2020/6/13
 

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