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 昨年6月に始まり、1年間にわたる連載を終えたシリーズ「いのちをめぐる物語」(全8部)には、読者から約350通の手紙やメール、ファクスが寄せられました。家族との別れを経験した人、闘病中の人、医療や介護関係者からのお便りもありました。生と死に向き合い、葛藤や後悔、亡き人への愛情…。あふれる思いがつづられていました。取材班はそれらの文面を心に置きながら、1年間、記事を書き進めてきました。シリーズ最後のお便り特集をお届けします。(紺野大樹、中島摩子、田中宏樹)

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 2018年9月に94歳の父をみとりました。老衰でした。夜中の1時すぎ、寝かしつける直前でした。父の呼吸が急に速く大きくなり、5分ほど続いた後、今度はゆっくりした呼吸に変わり、しばらく続きました。私は「これが最期だなあ」と直感しました。

 そして、父の肩を揺らし、背中に手を入れて抱きかかえ、姉と私を育ててくれたことに対し、言葉にして感謝を伝えました。大粒の涙が止まりませんでした。鼓動が止まったか、呼吸が止まったか、その瞬間に合掌をしました。

 11年6月、脚立から転落して左大腿(だいたい)骨を折り、1カ月半入院。要介護5となり、事業者の支援が入りました。当初3年は週2~3日、デイサービスへ車いすで出掛け、それを拒否してからはほぼ毎日、在宅で介護ヘルパーに食事支援、オムツ交換、清拭(せいしき)など多方面で介助、介護していただきました。

 春と秋、たまに私が父を抱えて車いすに乗せ、近くの公園へ散歩できたことが、父にとっても私にとっても、今となっては幸せなひとときでした。野の草花を持ち帰り、庭に植え付けたことも遠くない記憶に残っています。

 父は週2回の訪問入浴を、本当に楽しみにしていました。乳白色の入浴剤を入れ、かき混ぜ、幸せそうに「ああ、ええあんばいやあ」とつぶやいていました。風呂に入れてくれる若い3人のスタッフさんは、父だけでなく私たち家族にも若いパワーを注いでくれました。

 年月を増すごとに強くなった思いは、父にとって、いかに日常を苦痛なく快適に過ごさせてあげられるかでした。かゆい所はタオルでこする、全身をマッサージで刺激する、散歩に出掛けるなど、本人の気力を伸ばすことだけを考えていました。介護する側、される側も百人百色であり、どれだけ寄り添ってあげられるかが大切だと思います。

 自分自身は「後に後悔しないようにしよう」という強い思いだけでした。よく言われる「完璧に」とか「100パーセントの介護を」といった思いが強すぎるのも良くないですし、介護に答えや正解はないのかもしれません。実際、自分でも3分の2ぐらいのことしかできてなかったと思います。

 私には精神障害を患う姉がいました。ヘビースモーカーで肺の病気もあり、生活の全てで介助が必要でした。

 昨年8月、父の初盆の墓参りに行く直前の出来事でした。お昼すぎに私が帰宅すると、姉が1階の父のベッドに横たわっているのを見つけました。舌が奥に入り、心臓は動いていましたが、呼吸と脈はありません。救急隊員が来るまで指示通り、心臓マッサージをしていました。

 救急隊が到着し、4~5人で処置を施してもらった後、搬送されましたが、約1時間後に帰らぬ人となりました。肺血栓症でした。脱水症状も影響したと思われます。

 姉は5年ほど前から移動支援を受け、買い物や外食、入浴に出掛けることができました。直近の1年間は、在宅で入浴や食事を支援されていました。

 本当にまだ心の整理がついていません。今は仏壇にある父の遺影の横に亡き姉の遺影とお骨を並べています。亡き父には姉を守ってやれなかったことへの謝りと悔い、亡き姉には日々の健康面での認識の甘さと、もっともっと優しくしてあげたらよかったという思いで、涙しかありません。(神戸市須磨区、60代男性)

2020/7/5
 

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