昨年6月に始まり、1年間にわたる連載を終えたシリーズ「いのちをめぐる物語」(全8部)には、読者から約350通の手紙やメール、ファクスが寄せられました。家族との別れを経験した人、闘病中の人、医療や介護関係者からのお便りもありました。生と死に向き合い、葛藤や後悔、亡き人への愛情…。あふれる思いがつづられていました。取材班はそれらの文面を心に置きながら、1年間、記事を書き進めてきました。シリーズ最後のお便り特集をお届けします。(紺野大樹、中島摩子、田中宏樹)
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私は一昨年、がんで夫を亡くしました。41歳でした。夫がステージ4のがんと判明したのは37歳で、その時、子どもは3歳と0歳でした。私は幸せの絶頂から、どん底に突き落とされました。
いわゆる「AYA世代」のがん患者で、周りの友だちや知り合いに同情や興味本位で聞いてこられるのが嫌で、両親ぐらいにしか話していませんでした。
私にとって夫の闘病生活はつらく、悲しく、苦しい時期でしたが、周りには分からないように生活していました(もちろん、楽しいこともたくさんありました)。
夫は、亡くなる数週間前に1人で東京の病院まで治験ができないか診察に行ったり、3日前まで仕事に行ったりしていて、最後まで生きることを諦めませんでした。
私は一緒に生活していて、夫は長くないのではと思いつつ、そんな夫に終活について話すことができませんでした。主治医も夫の意思を察してか、亡くなる数日前に「残された時間は少ない」ということしか言わなかったので、結局、終活はできないまま亡くなりました。私は、夫が最後まで家で過ごしたいという希望をかなえただけでした。
夫にとって闘病生活は大変だったと思いますが、最後、夫は良かったのかもしれないです。私は夫にきちんと終活をしてほしかったですし、家族とのんびり過ごす時間がほしかったです。でも、ほぼ満足はしています。夫は頑張りましたし、私はできることはしました。後悔はありません。
いろいろな死があると思います。そして、正解はない。人が何と言おうと、本人と家族が満足しているなら、良い死ではないかと思います。
ただ、夫ががんになり、亡くなったことは、私の中でまだ消化できていないみたいです。「いのちをめぐる物語」を読んでいると、大変だったあの頃を思い出し、知らない誰かさんに話してみたくなりました。(神戸市、40代女性)
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