インターホンを押すと、「はい、はーい」と元気な声が聞こえてきた。
英国から帰国した私は、洲本市にあるホームホスピス「ぬくもりの家 花・花」を訪れた。理事長の山本美奈子さん(62)が出迎えてくれる。暦は5月になっていた。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言はまだ解除されず、「花・花」も入居者の健康に気を配っている。
初めて訪れたのは昨年2月。何度も足を運び、入居者と一緒にテレビを見たり、プリンを食べたりした。中でも、いつもリビングにいる西岡里子さん(99)と原とし子さん(84)の仲良しコンビは毎回、顔を合わせるのが楽しみだった。
原さんに「死ぬって、怖いですか?」と聞いたことがある。原さんは「そら怖いわー。死ぬん嫌やわ。みんなでな、ワーワーゆうてるんがええ」と言っていた。
ずっとにぎやかな「花・花」での暮らしを望んでいた原さんだったが、昨年8月、事情があって地域の高齢者施設に移っていった。「元気とは聞いてるんですけど、車いす生活みたいですね…」。山本さんも近況はよく分からないようだ。
結局、原さんには再会できなかった。本人の思い通りの暮らしができているのかどうか、気に掛かる。
◇ ◇
庭のベンチに山本さんと並んで座る。「私もね、利用者さんが亡くなった時、ご家族に『よー、生ききられましたね』って言うんですよ」。訪問看護ステーションの所長でもある山本さんは、在宅でも多くの人をみとっている。
「皆さん、最後にやっておかねばと思ったことを、しっかりやってから死んでいくんですよ。例えばね、『妹を小林幸子ショーに連れて行きたい』って言ってた人が実現してから逝ったり、『おじいちゃんをみとってから』って話していた女性は、そのご主人が逝った2日後に亡くなったり…。私たちも協力して、気掛かりをなくしてあげられたらなあって、考えてるんです」
◇ ◇
「生ききる」。昨年4月、マギーズ東京の秋山正子センター長に聞いた時は、その人が自分らしく人生を歩き終える、そう解釈した。
山本さんの言う「生ききる」は、やり残したことをやり終えてこの世を去る-。そういうことだろうか。(紺野大樹)
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