今年デビュー50周年を迎えたタケカワユキヒデさん。
タケカワさんと言えば『ガンダーラ』(1978)、『モンキー・マジック』(1978)、『銀河鉄道999』(1979)などのヒットを放ったゴダイゴでの活躍が印象的だが、デビューはその結成前年の1975年。英語詞の自作曲を歌う当時としては異色のシンガーソングライターだったが、それゆえに成功の糸口をつかむまでには大変な苦労があったそうだ。
タケカワさんのデビュー期、ゴダイゴ結成初期についてお話を聞いた。
ーー大学時代いろんなレコード会社に売り込んでおられて、うまくいかなければ音楽を辞めようと思われていたとか。
タケカワ:そうですね。だから大学には何年在籍できるんだろうとか、そんなことばかり考えてました(笑)。
ーー結局、1973年にジョニー野村さんが立ち上げたレビュー・ジャパン(MCA日本支社)に所属が決まるわけですが、その時のご心境は?
タケカワ:アーティストと言うよりは作曲家としてアメリカの出版社と契約をしたんだよね。だからいつ自分のアルバムが作れるのか、他の人に提供するのが先なのか、何もわからないままのスタートでした。僕もビートルズに憧れる気持ちはあったけど、ソングライターとしてのレノン=マッカートニーも好きだったから、別に音楽で身が立てられるなら作曲家でもいいかと思ったりしてました。
ーーすぐにお仕事は決まっていったのでしょうか?
タケカワ:提供用の曲やCMソングをたくさん作りました。でもさっぱり使われない(笑)。そうこうしてるうちに奈良橋陽子さんから『PASSING PICTURES(走り去るロマン)』の歌詞を提供されたんです。デモテープを来日中のエルトン・ジョンに聴かせて推薦コメントをもらおうとして、それは叶わなかったんだけど、結果的にデビューアルバム『走り去るロマン』の制作が決まりました。
ーー初めて本格的な楽曲制作を経験されていかがでしたか?
タケカワ:たとえばアルバム1曲目の『TRULY ME (僕のドリーム)』という曲。初めに指定したリズムをミュージシャンに演奏してもらったんだけど、今一つ感じが出ない。コードも一小節に一つとかだと格好がつかない。そこでドラムができたジョニーに色んなフレーズを教えてもらったり、コードも細かく書き込んでいくことでどうにか自分の思い描いていたサウンドが表現できるようになりました。
管楽器のアレンジなんてまったく経験ないのに「ここにラッパがあったほうがいいよ」とか勧められると、出来ないと言いたくないから家に帰ってカーティス・メイフィールドのLPを聴いて「あぁ、こうやるのか」と納得したり(笑)。苦労したけど、自分が思った通りにやらせてくれたから仕上がりは大満足。そうやって一から試行錯誤したことも、その後50年間ずっと役立っていると思いますね。
ーー『走り去るロマン』は後に評価されますが、当初のチャート成績は伸びませんでした。
タケカワ:だって英語なんだもん(笑)。アメリカやイギリスの水準に負けない作品を作りたいという中学生以来の夢が叶った嬉しさで小躍りしちゃって、セールスのことなんて全然意識できていませんでした。「アルバムができたらこれで億万長者だ」くらいに楽観的に考えてたのに売れなかったから「えっ!そうなの?」みたいな(笑)。
ーー世間からの評価についてはどう受け止めていましたか?
タケカワ:当時の音楽業界には作品自体の音楽性やクオリティについて評価、批評する人はほとんどいませんでした。既存の作品に理屈をつけてとやかく言う音楽評論家やそのフォロワーはたくさんいたんだけど、僕とかはまったく相手にされてなかったですね。
あとは売れるか売れないかだけで判断する人たち。どれくらい品を落としたら売れるのか、どれくらい何かに似てたら売れるのか…音楽も一つの産業ですからそうやって作品を作ることは決して恥ずかしいことではないと思います。でもせめてもうちょっと僕の試みを評価してくれる人がいてくれてもよかったんじゃないかと。ゴダイゴが売れて再会してから「実はいいと思ってたんですよ」みたいに言ってくれる人はたくさんいましたけどね(笑)。
ーーゴダイゴを結成されてからも売れるまでには約3年かかりました。当時の心境は?
タケカワ:すでにゴールデン・カップスで実績のあったミッキー吉野を中心にこれだけのミュージシャンが集まっても売れるのは容易じゃないんだなと、この仕事のシビアさをあらためて感じました。でもいきなり売れなかったからこそみんな必死になっていいものを作れたのかもしれないですね。僕も「ゴッホにはなりたくない、生きているうちに評価されたい」と常に全力投球でした。
ーー結果、1978年後半に大ブレイクを果たすわけですね。デビューされた頃のご自身を振り返ってどう思われますか?
タケカワ:今のほうが断然すごいですよね(笑)。音楽は今のほうがより良いものが作れてると思います。僕は人から学べるタイプじゃないので、自分で50年かけて音楽を掘り下げてきました。テクニカルターム(専門用語)を覚えないから他のミュージシャンとは今一つ話が合わないんだけど、知識はほとんど全部のことが頭に入ってるんじゃないかな。
ーータケカワさんは現在72歳。世間では60代、70代と年齢を経るごとに意欲を失っていく人も多いですが…。
タケカワ:僕の場合はそれはないですね。一時はやりきった感というか、新しいメロディーを作ることに興味を持てなくなっていた時期もありましたが、代わりに音色の作り方や編曲への興味が深まっていました。今はまたフラットになって両方やりたいという感じです。今度リリースしたアルバム『GLORY!』には50年かけて深めた知識と、50年前と変わらないエネルギーが詰まっています。ぜひ多くの人に聴いてもらいたいですね。
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デビュー50周年記念アルバム『GLORY!』は20の楽曲をそれぞれ英語詞バージョン、日本語詞バージョンで4枚のCDに収録したユニークな内容だ。タケカワさんならではのキャッチーなメロディーセンスと緻密な音作りがいかんなく発揮されており、これまでに数々の楽曲を共作した奈良橋陽子さん、四女でシンガーソングライターの武川アイさんが英語詞で参加しているのも興味深い。
これまでに収録曲『OH MY LOVE』、『I BELIEVE IN YOU』のMVがYouTubeで公開されているので、ぜひご覧いただきたい。
タケカワユキヒデ『GLORY!』作品情報仕様:4枚組CD(英語版2枚+日本語版2枚)/特製スリーブBOX入り発売日:2025年6月7日価格:10,000円(税込)
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)