転職者向けの求人情報サービスでは、「ボーナス後」に掲載社数が増える傾向があります。今も昔も「ボーナス」は、転職を真剣に考えるきっかけのひとつとされてきました。期待したほどの賞与が得られず転職を決意する人もいれば、想定以上の支給額に気持ちを引きとめられる人もいます。
■「あれだけ頑張ったのに。未来ないな……」
関東在住の会社員・Bさん(20代)は、入社5年目の営業職です。年次的には中堅と呼ばれるほどではありませんが、仕事に不安はほとんどなく、クライアントにも自信を持って提案ができるようになっていました。社内では新卒採用の広報パンフレットに登場するなど、順調な会社員生活を送っていました。
勤務先は、社員数こそ多くないものの歴史が長く、退職者の少ない年功序列型の企業です。就職活動中、部活の先輩から「地元本社のホワイト企業」と勧められた通り、ノルマに強いプレッシャーを感じることもほとんどありません。
入社前にイメージした通りの環境で安心する気持ちもある一方、ほかの会社に行った大学時代の同級生が早くも管理職に昇進したり、営業成績を上げて年収が大きく跳ね上がったという話を耳にするたび、心のどこかにモヤモヤとした思いが募っていったといいます。
そんな折、数年前に契約が終了していた元顧客を、先輩社員から引き継ぐことになりました。
「ウチのミスで取引がなくなった会社だから、再契約は難しいだろうけど頑張ってみよう!」と考えたBさん、何と半年間で再び契約をまとめ、営業成績を前年比1.5倍に引き上げることに成功しました。
ところが、期待していた賞与は、評価にわずかな加点がついた程度で、実際に増えたのは額面で5万円ほどでした。
「営業成績が伸びなかったときでもマイナス評価になることは少ないらしいですが、さすがにここまで目に見える成果を出してもこの評価だと思うと、今後も頑張る気になれません。営業成績をアピールできるうちに転職しようと思いました」
成果に対する評価への期待が大きかったぶん、落胆もひときわ大きかったようです。
■「大台にのったボーナス額。転職考えてたけど…」
関西在住の会社員・Cさん(30代)は、大手メーカーのエンジニアとして、社内インフラの構築を担当しており、今の職場に転職して2年目です。
それまではIT企業のインフラエンジニアとしてキャリアを積んでいましたが、転勤の辞令を機に「基本的に転勤がなく、年収を維持できる会社」への転職を決意しました。
しかし、新しい職場での業務内容は、Cさんが思い描いていたものとは少し異なっていたといいます。加えて、直属の上司はエンジニア出身ではないこともあり、いまひとつコミュニケーションがうまく取れないと感じる相手。
「夏のボーナスが支給されたら転職活動しようかな。どうせ評価も低いだろうし……」と考えていたそうです。
ところが、はじめてその会社での「満額」ボーナス対象になったBさんはビックリ。評価としては通常の査定で「良くも悪くもない」ものでしたが、会社全体の業績好調の影響で、なんと会社員人生初の「手取り100万円越え」だったのです。
その額を家族に話すと、「いい会社だね!!」「辞めたいって言ってなかった?やっぱり大手は安心だよ」と転職に大反対されました。
Cさん自身も、「特に悪い評価でもないし、もう少し続けてみようかな」と前向きな気持ちになったといいます。
やはり、想定を上回る金額には気持ちを大きく動かされる力があります。
■「賞与が少ないことが理由で転職をしたことがある」69.1%
マイナビが行った2025年5月に行った「夏ボーナスと転職に関する調査」によると、転職経験のある正社員のうち69.1%が「賞与が少なかったこと」を理由に転職したと回答しています。その際の平均賞与額は38.2万円でした。
一方、「予想より賞与が高かったため、転職をやめたことがある」と答えた人は33.3%で、そのときの平均賞与額は107.1万円でした。
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。