Aさんの履歴書には、資格欄に「TOEIC900点、日商簿記2級、秘書検定準1級、ITパスポート、色彩検定」などが数多く並んでいます。大学の授業の合間に、将来への漠然とした不安から、彼女は「武器」をかき集めるように資格の勉強に没頭していたのです。
これだけの資格があれば、引く手あまたに違いない。彼女は自信満々で就職活動に臨みました。しかし現実は彼女が思い描いていたものとは全く違いました。書類選考には通過するものの、面接に進むと必ず同じ壁にぶつかるのです。
面接官たちは、彼女の履歴書に並んだ資格の数々にいったんは感心した表情を見せるものの「この資格を活かして、弊社で具体的に何をしたいですか?」と尋ねてきます。Aさんは、それぞれの資格がいかに専門的で、取得が困難だったかをとうとうと語りますが面接官には響きません。面接官が本当に知りたいのは、その先にある「実務への貢献」だったからです。
就職や転職に「有利」と言われる資格は、実際には、企業からどのように評価されているのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
■持っているだけで有利になる資格はほぼない
ー「持っていると有利」な資格はありますか
持っていなければできない仕事は確かにありますが、持っているだけで有利になる資格は、ほぼ存在しないと考えたほうがいいでしょう。たとえば、簿記は経理や財務、総務といった管理部門を目指す上では、知識の基礎があることの証明にはなりますが、「会社の財務を守る要になりたい」など、キャリアの先にある目的とセットで語れない限り、評価はされません。
TOEICの点数も、外資系企業や海外取引の多い部署では、一定の点数が応募の足切り条件になることはあるでしょう。ただし、企業が本当に見ているのは点数そのものではなく、英語力を使って実務で何ができるかという点です。点数が高くても、ビジネスの現場でコミュニケーションが取れなければ意味がありません。
このように、企業は資格の有無だけではなく、その資格を使って「あなたは」何ができるかという点を見ているのです。
ー企業の人事担当者は、応募者の保有資格をどの程度重視していますか
資格の「数」や「難易度」そのものを重視しているわけではありません。「なぜ、その資格を取得したのか」という背景や、「その資格を今後どう活かすのか」というビジョンに着目している場合が多いようです。Aさんのように、一見華やかでも一貫性のない資格が並んでいると、「結局、何がしたいのか分からない人だ」と判断されるかもしれません。
資格という「点」ではなく、応募者のキャリアプランとその資格がどう結びついているかという「線」、そしてあなたがその資格を活用することで会社やお客様にどのような価値を提供できるのかという「面」でアピールする必要があります。これが自社の求める方向性と一致している場合に、初めてその資格は「意味のあるもの」として評価されるでしょう。
ー資格を効果的にアピールするコツはありますか
資格を効果的にアピールするには、逆算のストーリーで伝えることが不可欠です。まず、自分が何を成し遂げたいかという目標を語り、その目標を達成するための手段として資格が必要だったことに触れ、得たスキルをどのように会社で活かしていくかを伝えれば、相手に伝わりやすくなるはずです。
「ただの資格コレクター」ではなく、「明確な目的意識を持った人材」として、人事担当者の目にアピールしましょう。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)