「決して人間が猫を“飼ってやる”のではなく、猫が共に生きてくれた、私が支えてもらったんだと思っています」
亡き愛猫くーちゃんとの日々を振り返り、飼い主の桜姫さん(@flowerflute1)は、そんな愛を溢す。くーちゃんは、18年もの月日を共にした家族。
扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)という悪性腫瘍と闘い、ニャン生を全うした。
■雑誌の里親募集で発見!“人に媚びないサビ猫”に心奪われて…
くーちゃんは2000年頃、川の土手に遺棄されており、保護団体によって救助された。保護時、周囲に親猫はおらず、近くには息絶えた兄弟猫が…。
栄養状態が悪かったくーちゃんは小さくガリガリ。右目には目玉らしきものがあったが、徐々に引っ込んでしまい、片眼になった。
飼い主さんは雑誌の里親募集を見て、くーちゃんに一目惚れ。キラキラ瞳を輝かせる猫たちが並ぶ中、ひとりだけ媚びない目をしており、口をキッと結ぶ姿に心を奪われた。
「先住猫がいたので躊躇しましたが、どうしても忘れられなくて。ひと月ほどしてから、問い合わせしました」
くーちゃんは、見えない右目から涙や目やにが出ることがあった。そのたびに、飼い主さんは点眼をし、ケア。右からおもちゃを投げたり、猫じゃらしを振ったりすると気づくのが遅れることがあったため、遊ぶ時には左からおもちゃを投げていたという。
そうした細やかな愛は、くーちゃんの心にちゃんと響いていたのだろう。お迎え後、くーちゃんはきちんと座りながら招き猫のように片手で飼い主さんを呼び、「撫でて」とアピールするようになった。
大好きな日課は、飼い主さんと一緒の布団で眠ること。飼い主さんが布団に入ると、枕元に来て、鼻をフンフン鳴らした。
「布団を持ちあげると中に入り、クルッと向きを変えて、私の首元に顔を出してくるんです。毎日、そのまま朝まで並んで寝ていました」
だが、その後、新たに迎えた後輩猫が飼い主さんの布団に入るようになると、くーちゃんの態度は変化。飼い主さんとは寝ず、他の部屋へ行くようになった。
「とても申し訳なかった。だから、そばを通るたび、耳元で『くー大好き。くーが一番。くーは私の猫だよ』と言い続けました。喉を鳴らしていたので、分かってくれていたと思います」
■歯槽膿漏に思えた異変は「扁平上皮癌」の症状だった
くーちゃんが17歳になった頃、飼い主さんは異変に気づく。口からよだれを出すようになり、鼻の横に盛り上がったしこりが見られたのだ。
「最初は、歯槽膿漏だと思いました。かかりつけ医も同じ意見で、悪くなった歯を抜歯したんです」
しかし、後に詳しい検査を行う中で、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)であることが判明。扁平上皮癌とは、皮膚や粘膜を形成する「扁平上皮細胞」が、がん化して増殖していく悪性腫瘍だ。
がんの影響からか、くーちゃんの顔は腫れて変形。鼻周辺の内側の皮膚は溶けるように広がり、見えていた左目を覆ってしまった。
「病名が分かった時には、もう手遅れで抗がん剤治療などができませんでした。2週間ごとに抗生剤を注射してもらいましたが、状態はよくならず、鼻の骨は溶けて、ほぼなくなってしまいました」
■“両目が見えなくなった愛猫”を家族全員で最期まで愛し抜いた
扁平上皮癌により、くーちゃんは左目も見えなくなった。飼い主さんは少しでも安心しながら快適に暮らしてほしくて、家具の配置を変えないように配慮。より暮らしやすくなる工夫も取り入れた。
「くーは食卓横の出窓で寝るのが好きでしたが、そこは床に落ちやすい場所。だから、落下を防ごうと、背の高い机を購入して、置きました。机から低いキャットタワーを伝って、床に降りられるようにしてあげたくて」
しかし、がんは確実にくーちゃんの体を蝕んでいく。2018年8月20日、飼い主さんはどうしても外せない仕事があり、旦那さんにくーちゃんを動物病院へ連れて行ってもらった。
仕事中はスマホをマナーモードにしていたため、「くーが危ない」という旦那さんからの電話に気づいた時には、心がザワザワ。終業後、すぐに動物病院へ駆けつけた。
体を撫でると、くーちゃんは「来てくれたんだ」という嬉しさを伝えるかのように、顔を上げようとしたそう。その姿を見た飼い主さんは、自宅で看取ろうと決意。心地いい場所で寝かせてあげたくて、帰宅時には自宅近くのホームセンターで新しい猫ベッドを購入した。
「いっぱい撫でたかったけど、息が苦しそうだったので、静かに横にさせていたほうがいいかもしれないと思い、撫でるのはほどほどにして、『いつもそばにいてくれて ありがとう。大好きだよ』と耳元で伝えました」
その日は、くーちゃんをかわいがっていた大学生の娘さんも同席。家族全員に見守られながら、くーちゃんは天国へ旅立っていった。
■薄紙を1枚1枚剥ぐように「ペットロス」の悲しみを和らげる日々
「もう何匹も愛猫を見送っているけれど、そばにいた小さな温かい命が消えてしまう寂しさには全く慣れません。胸に重い石が沈んでしまったような苦しさです」
私とくーは、前世できっと会っていた。そう感じる何かが、互いの間にはあった--。そう話す飼い主さんは今、仕事や趣味に打ち込みつつ、生前に撮りためた写真を見返したり、心の中で話しかけたりしながら、かけがえのない存在を失った痛みを少しずつ和らげている。
「悲しみは、薄紙を1枚1枚剥ぐような感じで和らいでいきます。話を聞いてくれる夫や娘の存在も大きいですね」
そんな飼い主さんを、くーちゃんは天国から優しく見守っていることだろう。姿が見えなくなっても、くーちゃんは永遠に飼い主さん家族の一員だ。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)