昔のパワハラ上司と遭遇! ※画像はイメージです(siro46/stock.adobe.com)
昔のパワハラ上司と遭遇! ※画像はイメージです(siro46/stock.adobe.com)

若手デザイナーのBさんは、連日深夜に及ぶ長時間労働と、A課長からの人格を否定するような厳しい指導に、心身ともに限界を感じていました。退職の意思を固めたものの、A課長と直接対峙する勇気だけがどうしても湧いてきません。悩み抜いた末、彼はインターネットで見つけた退職代行サービスに申し込みました。

業者からの連絡は事務的で、驚くほどあっけなく退職手続きは完了しました。もうあのオフィスに行く必要も、A課長の顔を見る必要もない。Bさんは、まるで重い鎖から解き放たれたような解放感を味わい、すぐに別のデザイン会社へと転職を果たしました。

それから数年が経ち、Bさんは新しい職場で実績を重ね大きなプロジェクトを任されるまでになっていました。ある日、業界の合同展示会で元上司のA課長と偶然再会します。目が合った瞬間、A課長の表情が凍りつき、Bさんから視線をそらすと挨拶も交わさずに人混みの中へ消えていきました。

その1件以来、Bさんの心には漠然とした不安が影を落とし始めます。もしA課長によって悪いうわさが立てられれば、同じ業界で働いている以上、仕事に悪影響が出る可能性もあります。円満とは程遠い辞め方が、狭い業界の中でどれほどのリスクを伴うものだったのかを痛感し、後悔の念に苛まれるようになりました。

Bさんのように退職代行が、その後のキャリアや人間関係に影響を与える場合があるのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。

■退職代行サービス自体が悪いわけではないが…

ー退職代行の利用が同じ業界内での転職や仕事に影響を及ぼす場合はありますか

退職代行の利用歴は個人情報であり、次の会社の採用選考で直接不利益につながることは基本的にありません。ただし、「仕事を進める上での影響」については否定できません。

特に専門職や業界の狭い分野では、退職後に元上司や同僚と再会することがあります。その際に「退職代行で突然辞めた人」という印象が残っていると、業務がやりにくくなる可能性もあります。

また、企業同士の横のつながりを通じて「引き継ぎもせずに退職した」という評判が伝わるリスクも、ゼロではありません。

ー退職代行を利用された側は、その事実をどのように見ているのでしょうか

企業や上司の受け止め方はさまざまです。「退職代行を使うなんて」と感情的に捉えるケースもあれば、「なぜ退職代行を使わせてしまう状況になったのか」と冷静に振り返り、組織改善につなげようとする企業もあります。

とはいえ、前触れもなく引き継ぎなしで退職されると、企業としては不信感を抱かざるを得ません。残された同僚らの負担の急増、突発的な穴埋めのための労力やコストの急増といった物理的影響はもちろん、「何の挨拶もないなんて」という心理的影響も大きいからです。

ー後から退職代行の利用を後悔する人はいますか

退職は多くの人にとって心理的に大きな負担ですが、退職代行の使い方次第では「円満退職の機会」を失い、これまで築いてきた人間関係という資産を損なうことがあります。また、利用後に、「元同僚に会うのが気まずい」、「悪い噂が流れているのではないか」といった新たなストレスを抱えるケースも少なくありません。

退職代行サービス自体が悪いわけではありません。ハラスメントなどで心身が限界に達している場合には、有効な“最後の手段”となります。しかし、単に「気まずい」「面倒だから」という理由で安易に使ってしまうと、後で思わぬ形で自分を苦しめる結果を招くかもしれません。

◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)