国会議事堂(maroke/adobe.stock.com)
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  10月、自民党総裁選挙で高市早苗氏が女性初の総裁に選出され、メディアでは「女性初の首相」と報じた。直後、26年あまりにわたって自民党との連立を維持してきた公明党が突如として連立解消を表明し、日本の政治は一気に混迷の度を深めている。連立与党の崩壊により、誰が次の首相となるのか、政権の枠組みはどうなるのか、依然として不透明な状況が続き、政治的不安定性が露呈している。一方、このような「内からの混乱」に日本が直面する中、米中といった大国はそれをどのように捉えているのだろうか。

■米国の懸念 日米同盟の安定性低下

 米国にとって、日本は対中国戦略における最重要パートナーである。自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、日米同盟の安定性と機能性は不可欠の基盤となっている。そのため、米国は、長年にわたり強固な政治的基盤を維持し、日米同盟の安定性を強化してきた自民党政権が、国政選挙での連敗や自公連立崩壊という形で政治的不安定性を露呈したことに、強い危機感を抱いている。

 米国が最も懸念しているのは、今後、日本の政権が短期間で次々と交代したり、対米姿勢において温度差のある政権が発足したりするなど、同盟国としてのパートナーシップが機能しなくなることである。特に、10月末にはトランプ大統領の訪日が予定されており、新首相との間で、関税問題、防衛費のあり方、対中戦略など、山積する重要課題について信頼関係を築いておく必要がある。日本の国内政治が不安定であれば、トランプ政権との外交交渉は難航し、日米同盟全体が揺らぐことになりかねない。米国は、日本の政治が早期に安定し、揺るぎない同盟国として対中戦略で足並みを揃えることを強く望んでいる。

■中国の思惑 日本の対中姿勢と「楔」を打ち込む機会

 中国もまた、日本の政局の行方を注視している。中国の関心は、新政権が対中強硬姿勢を打ち出すのか、それとも経済や貿易の関係を重視した安定化を模索するのかという点にある。

 高市氏が首相に就任すれば、これまでの経緯から対中強硬姿勢を強める可能性が高く、中国はこれを警戒している。一方で、中国は、日本が米国の対中政策に盲目的に追随し、日米が完全に足並みを揃えることを最も警戒している。

 そのため、中国は、今回の連立崩壊による政局の混乱を、「日米の間に楔(くさび)を打ち込む」好機と捉える可能性がある。もし、内政の不安定さから、新政権が経済・貿易関係の安定化を優先し、「対中非強硬姿勢」に徹する時期があれば、中国は積極的に日本との関係を密にし、二国間協力の強化を通じて日本を米国から引き離そうとするだろう。

■混迷を深める日本政治、外交的危機管理が急務に

 自公連立解消という大きな衝撃は、日本の国内政治を激しく揺さぶると同時に、日本の外交・安全保障政策にも大きな影響を与える。トランプ大統領の訪日を控える中、日本には一刻も早い政治的安定と、主要な同盟国・周辺国との間で外交的危機管理を徹底することが、これまで以上に強く求められている。日本の「内からの混乱」は、米中の思惑が交錯する国際情勢の中で、大きな試練に直面していると言える。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。