リアタイ視聴が大事!(砂履シンシャさん提供)
リアタイ視聴が大事!(砂履シンシャさん提供)

もしも同じ屋根の下に暮らすなら、恋人であっても友人であっても『同じ趣味同士』と居るのが一番気楽なのかもしれません。砂履シンシャさんの作品『オタ婚のススメ!』では、偽装夫婦として結婚した2人の生活模様が描かれています。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、約4,000ものいいねを集め話題となっています。

東雲涼太と明美は、互いの利害が一致したため恋愛感情ナシで入籍した『偽装夫婦』であると同時に『オタク同士』でもあります。明美はサラリーマンとして働くかたわら、同人作家としても活動していました。ところがある日、別部署の男性・日向から旧姓で「小田ちゃん!」と呼ばれ食事に誘われます。

以前明美は既婚者だと伝えたうえ、「仕事の愚痴を聞くだけならそんな変なことでもない」と考えた明美は「ぜひ!みんなで!」と誘いに応じます。明美は『偽装夫婦』ゆえに、ある程度自由でいられるという気持ちもありました。

その後、後輩の助言もあり、念のため夫の涼太には「会社の男性に食事に誘われた」と伝えます。これによって涼太は動揺を隠せず、ひとりになるとベッドに倒れ込んでしまいました。涼太は「なんだ…胸に突っかかる感情は!?」「偽装結婚だから恋人を持つのは自由じゃないか?」と自問し自己嫌悪に陥ってしまいます。

一方明美はアニメ『ガンゲリオン』が放送開始されるため、食事を早めに切り上げようと決めていました。ところが集合場所に行くと、みんなで食事ではなくスーツ姿の日向と2人きりだったのです。

明美が夫の存在を持ち出しても、日向は意に介さず口説き始めます。そのやり取りで、明美は元々「外見を褒められるのが苦手」だったことを思い出しました。涼太は明美の外見を話題にしたこともなく、オタク同士である以上に「涼太さんだから気楽なのかも」と明美は感じます。

食事を終えると明美は「帰ってガンゲリオンリアタイしなきゃなんで!」と席を立ちました。日向はまったくめげていないようですが、明美は涼太とともにガンゲリオンを視聴できたのでした。

読者からは「お互いを意識するキッカケになってるのが良い」「日向メンタル強すぎやろ」など、さまざまな声があがっています。そこで作者の砂履シンシャさんに、同作について話を聞きました。

■互いに敬意があるからこそ信じられる、2人の距離感を見守ってほしい

ー明美と涼太の『偽装夫婦』を描くにあたって、特に意識している部分はありますか

特に大切にしているのは「お互いを対等に扱おうとしている姿」を描くことです。

同じ屋根の下で暮らすとなれば、自然と相手への配慮は必要になりますが、この二人の場合は「義務感」ではなく「リスペクト」によって関係が成立している、という点を強調しています。

リスペクトを前提にしているからこそ、無理のない距離感で過ごせるし、その積み重ねの中で徐々に愛情が芽生えていく。愛や絆よりも先に、まずリスペクトがあってほしい。

愛情先行の関係性も魅力的ですが、どうしても冷めたときに破綻のイメージが強いな…と個人的には思っています。だからこそ、愛が後から育つ二人を描きたいと思い、この軸を大切にしています。

描いていても、二人の空気感に安心感があるんです。互いに敬意があるからこそ、私自身も彼らを信じて見守れる──そんな感覚を大事にしています。

ーほかにも『同じギルメンの声が好き』などを描かれていますが、作品の中にはご自身の趣味や体験などを反映している部分もあるのでしょうか

自分も昔ネトゲをしていて、ギルメンと遊んだりした経験があります。そのときの独特の人間関係──実際に体験したことや、ギルド同士で聞こえてきた噂話など──が『同じギルメンの声が好き』の土台になっています。

あとはシンプルに「おじ×若い女性」という関係性が好きなんです。世間体にがんじがらめになっていく20代後半から30代は、どうしても生きにくさを感じやすい時期だと思います。しかもその生きにくさって、同年代同士がお互いに少しずつ積み重ねてしまうものでもあって、気づけば自分自身もその思考に絡め取られて、自分の価値を下げてしまう。

そういう息苦しい状況を、誰かにぶち壊してほしい──その願望を漫画にしているところがあります。

ー読者へメッセージをお願いします

「人と人が対等に向き合うこと、誰かの存在が生きにくさを壊してくれること──そんな瞬間を信じて描いています。読んでくださる皆さんの中にも、物語が少しでも響くものになっていれば幸いです。

(海川 まこと/漫画収集家)