「お母さん抱っこ~」バッグに子供をのせて安全且つ楽に抱っこできる(画像提供:株式会社カワキタ)
「お母さん抱っこ~」バッグに子供をのせて安全且つ楽に抱っこできる(画像提供:株式会社カワキタ)

歩けるようになった子どもが急に「抱っこ~」とせがむ。子育て経験者の多くが経験するシーンだ。体重が増えた子どもを両手で抱え、さらに荷物まで抱えるのは、親にとってかなりの負担になる。そんな悩みを解決してくれるアイテムが、大阪の企業から生まれた。開発したのは、もともとプラスチック製品(キャラクター雑貨、文房具)のOEM(受託製造)をしている株式会社カワキタ。畑違いのプラスチック製品メーカーが、なぜバッグを開発するに至ったのか。代表取締役社長の河北一朗さんに聞いた。

■人種も宗教も超えたニーズは「子ども用品」

「抱っこバッグ」と聞いて、筆者は漠然と「バッグに子供を収納する」イメージを抱いていた。ところが実際に製品を見せてもらうと、親のお腹あたりにバッグを提げ、バッグに子供のお尻をのせて抱きかかえる格好になる。また、バッグも首から提げるのではなく、ベルトを背中でクロスさせて両肩で支えるため、体力的な負担も軽減される。もちろん、子どもを抱っこしたまま、バッグの中身を取り出すこともできる。しかもバッグ自体のデザインもおしゃれで、普段使いできる設計になっている。

「今後の日本は、マーケットがどんどん小さくなります。海外にも販路を求めるために、どんなカテゴリがいいだろうかと自分なりに考えていました。宗教とか肌の色が違っても、我が子は可愛いという気持ちは同じですよね。ですから、子ども用品なら海外にも売れると思いました」

それが2011年頃のこと。そんな折、知人を介して「カバンが抱っこ紐に変身するアイデア」をもっているという人物と知り合う。いうなれば「抱っこバッグの原型」である。その人物は一児のパパで、子どもの急な「抱っこ~」に対応するアイテムとして試作品もつくっていた。子ども用品を扱うメーカーへ何社か売り込んでいたが、全く相手にされないという。河北さんも何度か会って、話は聞いていた。だがプラスチック製品とは畑違いのジャンルなので、自社で扱うという意識にはならなかった。

2012年、その人物があるテレビ番組の企画に、抱っこバッグの原型を持ち込んだ。新製品や新サービスなど、これからトレンドになりそうな「新しいアイデアの卵」を、リポーターが実際に体験し紹介する企画だった。そして抱っこバッグの原型が、なんと2012年の年間大賞を獲得。しかも、テレビの画面には「株式会社カワキタで商品化決定!」というテロップが出た。

「そんな話は聞いてないけれど、やるしかないと腹を決めました」

■発売以来10年間コピー商品が現れない

縫製をやったことがないプラスチック製品のメーカーが、バッグをつくることになった。茨城県で革小物メーカーを営む知人が、たまたまテレビ放送を見ていたらしく「縫製は未経験だろ?」と心配して、大阪の業者を紹介してくれた。河北さんもデザイナーに声をかけたり、幼児教育に携わっている大学の先生に協力を仰いだりして、様々な分野の助けを借りて開発プロジェクトチームが立ち上がった。

2013年からスタートした商品開発は、試作品をモニターに試してもらって意見を募り、改善してまたモニターに試してもらうことを繰り返しながらブラッシュアップ。完成してお披露目会を開いたときには、開発の着手から2年の月日が経っていた。

初期タイプは、お父さん向けのボディバッグタイプ「daccolino(ダッコリーノ)」を発表した。(現在は廃版)

次に、お母さん向けのデザインでショルダーバッグタイプの「N/ORN(ノルン)」が生まれた。ベルトを背中でクロスさせて肩への負担を軽減する設計(特許取得)になっている。次に、ユニセックス仕様のボディバッグタイプとして「N/ORN Máni(ノルンマーニ)」も発表。耐荷重はいずれも20kgで、おおむね5歳児まで抱っこできるとのこと。

子育て真っ最中のママさんパパさんの困りごとをピンポイントで解決する「抱っこバッグ」は、すぐに他社で模倣されるかと思われたが、意外にも発売以来10年間コピー商品が現れないそうだ。

現在は「N/ORN Máni(ノルンマーニ)」をベースに、体温と体重が測定できるセンサーを搭載。大阪・関西万博でプロトタイプをお披露目した「未来の抱っこバッグ」の開発が進んでいる。保育園に登園する前の検温や体重管理が容易になり、専用アプリでスマートフォンやタブレットへデータを送信して保存や管理することも可能。さらに夏の熱中症予防の観点から、子どもの肌の表面にセンサーを接触させて水分量を測定する機能を搭載する計画も進行している。

「いろいろな機能は搭載できるんですが、問題は小型・軽量化です。とくにバッテリーの大きさと重さを軽減することが課題です」

今後はインバウンドにも買ってもらうことと、海外へも販路を広げる構想があって、タイ、香港、シンガポールをターゲットに計画を練っているという。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)