「どうしてうちの子は、みんなと同じようにできないんだろう」「私の関わり方が間違っているのかな…」
谷口さん(仮名)は発達障害のある子どもを育てている中で、そのような言葉を漏らしました。
発達障害のある子どもを育てる親の多くが、一度はそんな思いに苦しみます。親子それぞれの特性と向き合いながら、日々奮闘する家族のリアルを紹介します。
■我が子の発達障害、どう向き合う?
発達障害の診断を受けた子どもたちは、周囲と違う行動や反応を見せることが多く、それが親の不安や焦りにつながります。
一方で、発達障害のある子どもは「理解されにくい」だけであって「できない」子ではありません。こだわりの強さや集中力、独自の発想などの特性は、その子の個性でもあります。
大切なことは、周囲の「普通」に合わせることではなく、その子自身に合った環境や関わり方を見つけることです。しかし、親がその視点を持てるようになるまでには、多くの時間と葛藤を必要とする場合があります。
診断を受けた当初は動揺する人も多いことでしょう。しかし、特性を理解し、少しずつ支援を取り入れていくことで「この子らしい成長」を見守る余裕が生まれていくはずです。
▽子どもの特性を受け入れるまでの葛藤
「どうしてできないの?」「他の子はできているのに…」
谷口さんは、そんな思いを口にしてしまった後に、自己嫌悪に陥ることがあると語ります。周囲の視線や比較の中で、子どもの特性を受け入れることは簡単ではありません。
しかし、支援を受けながら時間をかけて気づくのです。
「この子にはこの子のペースがある」「苦手がある分、得意なこともある」
発達障害の子育ては、「できるようにする」ことより「できないままでも大丈夫な環境を整える」ことが重要です。子どもの行動の背景を理解できたとき、叱る代わりに支える選択ができるようになります。
■気をつけるべきポイントや工夫
▽一人で抱え込まない
子育てで何より大切なことは「無理をしない」「一人で抱え込まない」という意識です。発達障害のある子の育児は、日常の多くに工夫が求められることもあります。
予定を急に変えると混乱してしまう場合は「あと5分で出かけるよ」と予告するなど、見通しを立ててあげる。
音や光に敏感な子には、静かな場所やイヤーマフなどの環境調整を行う。
忘れ物をしやすい子なら、一緒に持ち物のチェックをする。
こうした小さな積み重ねが、子どもの安心感につながります。主治医など、専門家と相談しながら、お子さんに合った声かけや工夫をしてみましょう。
同時に、親自身のケアも忘れてはいけません。
完璧な親である必要はなく「疲れた」「今日は休みたい」と思う日があって当然です。支援センターや療育施設、SNSの当事者コミュニティなど、同じ立場の人とつながることが、孤独をやわらげる一歩になります。
▽療育・学校選び
療育とは、障害のある子どもが社会的に自立することを目指して行われる医療・訓練・教育のことで、具体的には言語聴覚士による言葉の訓練、作業療法士による手先の動作や感覚統合の訓練、臨床心理士によるソーシャルスキルトレーニング(SST)などが含まれます。療育を受けることで、発達障害のある子どもたちは、少しずつ社会との関わり方を学んでいくことができます。
療育を利用する際には、自治体の窓口で療育手帳(知的障害のある方が対象)の取得について相談することができます。また、精神疾患を伴う場合には精神保健福祉手帳の対象となる場合もあります。これらの手帳を取得することで、療育施設の利用料の軽減や、各種福祉サービスを受けやすくなるなどのメリットがあります。
療育を受けることで、発達障害のある子どもたちは、少しずつ社会との関わり方を学んでいくことができます。
ただし、療育施設の数は地域によって大きく差があり、都市部では順番待ち、地方では選択肢がほとんどないという現実も。「この地域では療育が週に一度しか受けられない」「専門家が少ない」と悩む声も多く聞かれます。
また、通常級に通わせるのか、支援級や特別支援学校に進むのかも、親が大きな決断を迫られる場面です。
通常級では、定型発達の子ども達と同じ空間で生活するため、将来的な社会生活を送る場合に近い環境である一方で、一律一斉指導のため適切な支援が受けられない場合があります。支援級や特別支援学校では、学習面・生活面での支援が手厚い一方で、今後の進学先が限られる場合があります。
どちらにもメリットとデメリットがありますが、最終的には「子どもが安心して過ごせるかどうか」が最も大切な判断軸になります。普通級でも「入り込み支援」「取り出し支援」といった形での支援が受けられる場合もありますので、広く情報収集したり実際に見学したりした上で、子どもにとってどんな支援や配慮が必要かを整理することも重要です。
◇ ◇
子どもが発達障害を持つ場合、他の子ども達と比べて落ち込む日々を送る場合は珍しくありません。
それでも、子どもの特性を受け入れながら、子どもの未来を慮りながら、保護者である自分の心を癒すことも必要です。
保護者自身の心を癒すことは、もちろん保護者のためでもありながら、かえって発達障害を持つ子ども達のためでもあるのです。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士。身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)
























