リモートワークを始めて3年、Aさんはすっかり自由な働き方に慣れていました。日中の煮詰まった時間には思い切って近所のカフェで休憩したり、役所の手続きを済ませたりしています。その分、早朝や深夜に集中して働くことで、むしろ生産性は上がっていると自負していました。
そんなある日、昼下がりに1時間ほど出かけて帰宅すると、上司とクライアントからのメールが何十件も届いていました。血の気が引いたAさんが慌てて連絡を取ると、外出している間にシステムに致命的なエラーが発生し、クライアントの業務が完全に停止してしまったことを知らされます。
翌日Aさんは上司に呼び出され、エラーに関する報告書とともに会社が貸与したノートパソコンのログを渡されます。そこにはAさんの勤務時間中の移動履歴がすべて、日付と時刻とともに克明に記録されていました。成果さえ出せば許されると思っていたAさんの行動は、実は会社にすべて筒抜けだったのです。
このようなリモートワーク中の私的な離席は、法的にどう扱われるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
■私的な用事をすることは原則として認められません
ーリモートワーク中の従業員にも、「職務専念義務」はあるのですか?
リモートワークは働く場所がオフィスから自宅などに変わるだけで、労働契約に基づく職務専念義務が免除されるわけではありません。勤務時間中は会社の指揮命令下にある状態ですので、育児や家事、買い物など、私的な用事をすることは原則として認められません。オフィス勤務と同様に、許可なく勤務場所を離れることは「職務専念義務違反」にあたります。
ー「5分だけコンビニへ」と「1時間ジムへ」では、法的な扱いに違いはありますか?
どちらも許可のない「中抜け」である以上、職務専念義務に違反している点では同じです。ただし、その行為の重大性は異なります。社会通念上、トイレ休憩程度の短い離席が直ちに問題視されることは少ないでしょう。
しかし、1時間ジムに行くといった行為は、完全に労働から離脱していると見なされ、より悪質な義務違反と判断されます。どちらの場合も、働いていない時間は給与が支払われない「ノーワーク・ノーペイ」の原則が適用されるのが基本です。
ー従業員の「中抜け」を理由に、注意・指導したり、懲戒処分を下したりすることは可能ですか?
可能です。リモートワークでは従業員の勤務状況が見えにくいため、企業によっては様々な方法で時間管理を行っています。例えば、勤務中は常時カメラに接続することを義務付けたり、PCのキーボード操作を記録して一定時間操作がない場合にアラートを出すシステムを導入したりするケースがあります。
こうしたPCのログや、メール・チャットへの応答記録といった客観的な事実に基づいて、まずは注意・指導が行われます。それでも改善が見られない場合や、「中抜け」によって業務に具体的な支障(例:重要な連絡が取れず損害が発生した)が生じた場合には、けん責や減給といった懲戒処分の対象となることがあります。処分の重さは、中抜けの時間や頻度、業務への影響などを総合的に考慮して判断されます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























