会社と家を往復しながら仕事をしていると、「家で働けたらいいな」と思うことがあるでしょう。子どもとの時間を大切にしながら収入も得られる理想の働き方に憧れる人も多いはず。しかし実際には理想と現実のギャップに苦しむことも……そんな体験を正直に描いた『廃業届を出しました』(作:ゆるみんさん)がSNSで共感を集めています。
「パートを休んだ分の収入を補えたら」と、在宅ワークに憧れて副業を始めたゆるみんさん。最初はパートをやりながら順調に収入を増やすことができました。しかし手取り月収が10万円を超えたあたりから、イライラする気持ちを募らせて体調を崩しはじめました。
当時のゆるみんさんの日常は、朝は子どもを保育園に送り届け、メール対応をしながら出勤。パート先で働いたあともメール対応をしながら帰宅します。さらに帰宅後はご飯作りやお風呂の準備といった家事をひと通り済ませてから、イラストや図解の制作作業を開始。このように、毎日深夜まで分刻みのスケジュールを続けたのです。
目まぐるしい生活の中、気づけば子どもの休みの日も横でパソコン作業、年末年始もデスクに向かう日々になってしまいます。その結果、心も体もボロボロになり、パートすらまともに行けない日もあったそう。
体調を崩したことで、ようやく立ち止まって考えるきっかけになったゆるみんさんは、改めて自分の置かれている状況を見直してみると、お金に困っているわけでも、働くのがつらい環境でもありません。無理して在宅で稼ぐ必要はなかったのです。
また、ゆるみんさんの父や母が病気を患った影響から、ゆるみんさん自身も「いつ死ぬかわからない」と思って生活をしていました。そのため、「自由に生きたれ」と考えるようになったのです。
この考えも後押しし、ゆるみんさんは副業を辞める決断をしました。こうして多忙な毎日を手放したら、悩まされていたメンタルと体調は次第に回復していったのです。さらに無理をせず好きなことや、やりたいことに目を向けたら、創作意欲がわき「エッセイ漫画」を描くキッカケになりました。
そんな同作について、作者のゆるみんさんに話を聞きました。
■貴重な時間を削って大丈夫なのか考えてほしい
ー「この漫画を描こう」と決めたきっかけを。
SNSを見ていると、小さな子どもがいるのに睡眠時間を削って副業をしている方や、「成功しているように見える投稿」に出会います。そんな姿に触れるたび「それは本当に求めている働き方? 子どもとの時間は大切にできている?」と問いたくなるのです。
私自身も同じように走り続け、大切なものを見失っていました。子どもが小さい時期は一瞬です。その貴重な時間を削って大丈夫なのか立ち止まって考えてほしいと思ったのがキッカケです。
ー『辞めよう』と決めたときのお気持ちは?
働き方は人それぞれ。「フリーランスでなければ」「たくさん稼ぎたい」「お小遣い程度で十分」など優先するものによって違います。私はとにかく、子どもと向き合う時間を優先したかった。だから今は、あえて「ガンガン働かない」ことを選んでいます。焦りの原因はSNS。成功している人を見ると心が揺れましたが、辞める決断をしてからは「私には私の事情がある」と思え、自分のペースで進めるようになりました。
ー読者にどんなことが伝わればいいと思いますか?
SNSを見ていたら、とにかくたくさんの情報が流れてきます。上手くいってる人を見ると強烈に憧れて、スクールやコンサルに高額料金を払ってしまうことも。でも、ほんとにそれでいいの?まわりがガンガンやってるからって焦らなくても大丈夫。短期間で稼いだ方に目が向きがちですが、ゆっくり年数をかけている方もたくさんいます。あなたの優先順位を本当に考えてほしいと思っています。
(海川 まこと/漫画収集家)