インコが語る父の思い(かもみらさん提供)
インコが語る父の思い(かもみらさん提供)

父親や母親が自分のことをどう思っているのか、考えることはありませんか。疎遠になっていると「きっと何とも思っていないな」と考えてしまうかもしれません。

疎遠だった父親が亡くなった後、初めて父の気持ちを知る物語『声真似』(作:かもみらさん)が、SNSに投稿されて注目を集めています。

主人公のユキノリは、父の死をきっかけに、実家に残された一羽のインコを引き取ることになります。生き物を飼った経験はなく、そもそも父が鳥を世話していたことすら知らなかったユキノリは、戸惑いながらもインコとの生活を始めるのでした。

ユキノリの父は、生前ほとんど感情を表に出さない人物でした。母が家を出ていった時も涙ひとつ見せず、黙々と仕事だけに向き合っていました。そんな姿にユキノリは「父は家族への関心が薄い人なのだ」と思っていました。

家族関係が希薄だったユキノリは、大人になって家を出てからは1度も実家に帰りませんでした。そして内面を知る機会がないまま父は他界し、年月だけが過ぎていきました。しかしある日、ユキノリがインコに向かって「父さん」とつぶやくと、驚くべきことが起きます。

なんとインコは突然「ユキノリ」と声を発したのです。驚くユキノリに向かって、続けてインコは「ユキノリ、ゲンキカ?」「カゼヒイテナイダロウカ」と話し続けます。さらに「アイタイ」というインコの声を聞いた時、ユキノリの感情が大きく揺さぶられます。

それはおそらくインコに向かって父が話していた言葉なのでしょう。父はユキノリを常に心配し、会いたいと願っていたのです。無口で不器用だった父の秘めた想いを知った息子は、涙を浮かべ親を思うのでした。

読者からは「普通に泣きそうになりました」「これからはインコちゃんをお父さんと思って大事にしてあげて」など、同作への賞賛の声が多くあがっています。そこで作者のかもみらさんに、同作の背景を聞きました。

■響きだけが届くとき、人の胸に触れる何かがある

-同作を描こうと思ったきっかけを教えてください

 YouTubeで見かけた一羽のインコが、亡くなった飼い主の口癖まで真似て話していたんです。その姿に、“声は消えても、どこかに残っているのかもしれない”と感じました。その小さな気づきが、この物語の始まりです。

-同作で描きたかった思いはどんなものでしょうか?

 鳥と人間が言葉を共有しているわけではないのに、インコの声には不思議なぬくもりがあります。意味ではなく、響きだけが届くとき、人の胸に触れる何かがある。その瞬間を物語に閉じ込めたいと思いました。

-父親のキャラクターを描くうえで意識したことはありますか?

 父親は口下手で、不器用で、感情をしまいこんでしまうような印象です。実は自分の父にも似ていて、どこか重なる部分がありました。言えなかった言葉が、インコを通じてようやく息子に届く──その静かな時間を大切にしました。

-作品を通して読者に伝えたいことを教えてください

 “もっと家族や友人と話してほしい”という気持ちです。言えなかった一言は、あとになって胸を揺らすことがあります。だからこそ、今交わせる声を大切にしてほしい。その願いが、この物語の根っこにあります。

-読者からの反応で印象に残っているものはありますか? 

作品を読んで「家族の声を思い出した」という言葉をもらえたときはうれしかったですね。

インコの声を通して浮かび上がったのは、特別な家庭の物語ではなく、不器用な父と息子のごく静かなつながりでした。

言えなかった言葉は消えてしまったように見えても、どこかで形を変えて残り続ける──作品にはそんな優しさがあります。

 胸の奥にそっと灯がともるような、静かな親子の絆が描かれています。

(海川 まこと/漫画収集家)