在宅介護を受ける高齢者女性※画像はイメージです (buritora/stock.adobe.com)
在宅介護を受ける高齢者女性※画像はイメージです (buritora/stock.adobe.com)

「母を自宅で看取りたい。でも、費用がどのくらいかかるのか心配…」。東京都に住む田中さん(仮名・52歳)は、要介護3の母親(78歳)の今後について悩んでいました。母親は認知症が進み、自力での立ち上がりや歩行が難しくなり、食事や排泄にも一部介助が必要な状態です。病院での治療が終了し、退院後の療養方法を考える中で、母親は「自宅で過ごしたい」と希望しています。母親の年金収入は月額約15万円で、医療・介護費用の自己負担割合は1割です。しかし、訪問診療や訪問看護、介護サービスなどの費用が気になるものです。制度が複雑で情報も断片的であるため、不安を感じる人も多いのではないでしょうか。

在宅医療で看取りを行う場合の費用について、医療保険や介護保険の仕組み、負担軽減策や公的補助について見ていきましょう。

■在宅医療の費用構造

在宅医療では、主に「医療保険」と「介護保険」の2つの制度を活用することになります。医療保険を使うと訪問診療や訪問看護が受けられ、介護保険を使うと訪問介護やデイサービスなどが利用できます。

厚生労働省の「2022年(令和4年)度医療費の動向」によると、在宅医療にかかる医療費は年々増加しています。介護保険については、利用者負担が原則1割ですが、所得に応じて2割または3割になる場合があります。

■具体的な費用例-要介護度別の試算

要介護3の人が在宅で看取りまで過ごす場合、自己負担1割での実費(月額)を一例として示します。

・訪問診療(月2回):約6,000円
・訪問看護(週2回):約8,000円
・訪問介護(週3回):約12,000円
・デイサービス(週2回):約16,000円
・ショートステイ(月1回):約8,000円
・福祉用具レンタル(月額):約2,000円

これらを合計すると、月額約5万2000円程度となります。要介護度が上がると、必要なサービスが増えるため、費用も増加しますが、介護保険には支給限度額があり、その範囲内であれば負担軽減が可能です。

ただし、サービス内容や金額は地域によって異なる場合があります。実際の費用については専門家に確認することをお勧めします。

■高額療養費制度と負担軽減策

医療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用すると、一定額を超えた分が払い戻される仕組みがあります。例えば、70歳以上で年収約370万円未満の人は、外来で月額1万8000円、入院を含む場合は月額5万7600円が上限となっています。

住民税非課税世帯の場合は、外来で月額3万1000円、入院の場合は月額1万9000円が上限となります。また、年収が650万円以上の場合、外来で6万7000円、入院の場合は21万2000円が上限となります。

■病院での看取りとの費用比較

病院での看取りは、入院日数や診療報酬により費用が高額になることが一般的です。厚生労働省の「令和4年度 国民医療費の概況」によると、入院医療費の単価は外来や在宅医療に比べて高い傾向があります。

在宅医療での看取りにかかる費用は、医療保険と介護保険を活用することで、自己負担額(1~3割)が月額2~5万円程度になるのが一般的な目安です。ただし、実際の金額は要介護度や利用するサービス内容によって異なりますので、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、具体的な費用の見積もりを取ることが重要です。

一方で、在宅での看取りでは介護保険を利用したサービスや住宅改修費用が別途かかることもありますので、単純に金額だけで比較するのではなく、家族の負担や本人の希望を総合的に考慮するのがよいでしょう。

■利用可能な公的補助や支援制度

自治体によっては、在宅医療や介護に対する独自の助成制度が存在します。また、介護保険料や医療費の負担軽減を目的とした減免制度もありますので、各地域の福祉窓口に確認することが大切です。

さらに、住宅改修費用(手すりの設置や段差解消など)については、介護保険を利用し生涯を通じて最大20万円まで補助が受けられる場合があります。自己負担は1~3割となりますが、20万円の支給限度額を超えた費用は全額自己負担となります。詳細については医師、ケアマネジャー、地域包括支援センターに相談して、地域ごとの規定を確認してください。

◇  ◇  

制度は複雑に見えますが、専門職が丁寧にサポートしてくれるため、一人で悩まずに早めに相談することが大切です。

田中さんは、早速地域包括支援センターに相談しました。ケアマネジャーと一緒に具体的な費用見積もりを作成し、訪問診療や訪問看護、訪問介護を組み合わせることで、月額5万円程度の負担で在宅療養が可能だと知り、大きな安心を得ることができました。

また、高額療養費制度や住宅改修費用の補助についても詳しく説明を受け、手すりの設置や段差解消などの工事も介護保険を活用できることが分かりました。田中さんは家族会議を開き、母親の希望である「自宅で過ごしたい」という願いを叶える決断をしました。

現在、母親は住み慣れた自宅で穏やかな日々を過ごしています。田中さんは「早めに相談して本当に良かった。費用の不安が解消されたことで、母との時間を大切にすることに集中できるようになりました」と話しています。制度を正しく理解し、専門家のサポートを受けることで、在宅での看取りという選択肢が現実的なものとなったのです。

まずは、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、具体的な費用見積もりを取ることが、現実的な備えの第一歩となります。介護や老後に備えるためには、早期に情報収集を行い、家族でしっかりと話し合っておくことが、安心した選択につながります。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。 

(まいどなニュース/もくもくライターズ)