20年という長い歳月を共に歩んできたAさんとBさんは、入籍こそしませんでしたが、誰よりも深く結びついた夫婦でした。しかし、Aさんの不慮の交通事故死によって穏やかな日常は突然断ち切られてしまいます。
悲しみに暮れるBさんを絶望の淵に突き落としたのは、葬儀の直後に現れたAさんの弟でした。長年音信不通だった彼が、法律上の相続人であることを盾に、2人が暮らしていたマンションの明け渡しと預貯金の引き渡しを求めてきたのです。
2人が協力して築き上げた財産であるにもかかわらず、内縁関係であるBさんには法的な権利が一切ないと主張され、住み慣れた家さえも奪われようとしています。積み重ねた愛や時間は、紙切れ1枚の有無で無に帰してしまうのでしょうか。
北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
■入籍していないなら遺言書が鍵
ー事実婚・内縁関係のパートナーが亡くなった場合、遺産を相続する権利はありますか
残念ながら、原則として相続する権利はありません。日本の民法において、相続権が認められているのは法律上の配偶者と血族(子、直系尊属、兄弟姉妹)のみです。たとえ何十年連れ添い、実質的に夫婦同様の生活をしていたとしても、入籍していないパートナーは「法定相続人」にはなれません。そのため、亡くなった方の預貯金や不動産を当然に引き継ぐことはできないのが現実です。
ーパートナーが遺言書を遺していなかった場合、遺産は誰のものになるのですか?
遺言書がない場合、遺産はすべて「法定相続人」のものになります。このケースのように2人の間に子どもがおらず、Aさんの両親も既に他界されている場合、Aさんの兄弟姉妹(この場合は弟)が法定相続人となります。BさんがどれだけAさんの介護や財産形成に貢献していたとしても、遺言書がなければ、疎遠だった兄弟が全財産を相続することになります。
もし法定相続人が誰もいない場合は、最終的に国の財産となりますが、その段階で家庭裁判所に申し立てを行い「特別縁故者」としての裁判所の判断の下、財産分与を受けられる可能性は残されています。
ー長年連れ添ったパートナーに遺産を遺すための法的な方法は何がありますか?
「死因贈与契約」の締結や「遺言書」の作成が考えられますが、最も確実で一般的な方法は、生前に「遺言書」を作成しておくことです。
このケースのように相続人が「兄弟姉妹」の場合、彼らには「遺留分(法律上保障された最低限のとり分)」がありません。そのため、全財産をパートナーへ遺贈する(遺言により贈与する)との遺言書があれば、弟さんの取り分をゼロにすることができ、パートナーへ全財産を渡すことが可能になるのです。
確実にその意思を実現するためにも、不備で無効になったり紛失の恐れが少ない「公正証書遺言」の作成を強くお勧めします。また、元気なうちに財産を移す「生前贈与」や、受取人を指定できる「生命保険」を活用するのも有効な手段です。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)

























