どんなに大評判の作品でも、全員が「素晴らしい」と思うわけではありません。しかし否定したい気持ちは、もしかするとただ素直になれていないだけかもしれません。斉所さんの作品『メートル』は、商業漫画家の紫(ゆかり)と同人漫画家のキヨを中心に描かれる物語です。同作からの抜粋作『皆が愛するなら私は愛さなくていい気がする』は、X(旧Twitter)に投稿されると約3100ものいいねが寄せられました。
紫とキヨの2人は、大人気映画を鑑賞しに行きます。上映を終えたあと、周囲の人々は「すっごい面白かった」「今年の映画で一番イイかも」と大評判です。カフェに着いた紫とキヨは、「なんだあれ」「子ども向け…に見せかけて大人にも刺さるシーン詰め込みまくりやがって」と作品の感想を語りはじめました。
紫は「いいもん観たなぁ」と言いますが、キヨは「ケチのつけようがない」「隙が無さすぎて好きになれない」と神妙な面持ちで語ります。キヨは「あんなよくできた作品、私が愛さなくっても世界中から愛されるから…冷める」と続けて話しました。
紫はそんなキヨを見て「それは創作者としての嫉妬だ」「ありのまま受け入れろ、どんどん心がブスになるぞ」と忠告し、2人はその場で解散しました。
しかし、2人はなぜか映画館の劇場内で再会します。「2回観ればさすがに粗も見つかるはず」と、2人は同じ日に同じ映画を観るのでした。
同作に対し、SNS上では「この気持ちめっちゃわかる」「2人の不思議なノリが癖になる」などの声があがっています。そこで、作者の斉所さんに話を聞きました。
■『ケチのつけようがない作品』を観たときの自らの感想の葛藤を描いた
-同作を描いたきっかけを教えてください。
このお話を描いたきっかけは作中の状況とほぼ同じで、当時、非常に評価の高い映画を見たことです。エンタメとして面白く、かつテーマの描き方も非常に練られていて、まさにケチの付けようがなかったのですが、隙のなさゆえに世界観にのめり込めず、「自分(のような人間)に向けて作られた作品ではないのかも…」という感想を抱いてしまいました。
一方でそんなこだわりを感じずに、作品の良さをストレートに受け止められるようになるべきではないか、という葛藤もあり、作中の2人に異なる立場で語り合ってもらいました。
-紫とキヨ、2人のやり取りを描くうえで気をつけていることはありますか
この作品を描いたのは少し前なのですが、紫とキヨは友人同士ではあるものの、漫画の作り方や考え方は結構違っています。ですので、仲良く意気投合するより、ケンカ友達のやり取りを楽しんでもらうように描いていたと思います。
-同作の抜粋元である『メートル』はどのような作品なのでしょうか
『メートル』は、ジャンルとしてはいわゆる「漫画家マンガ」だと思いますが、目標に向かって一直線に進む感じではなく、鬱屈したり立ち止まったりしてしまう情けない部分をなるべく正直に表現したいと思って描き始めた作品です。
描き始めた時はだいぶ恥ずかしかったのですが、自分の作品としては非常に多くの方に読んで頂きました。読者の方から第1話を元にした小説を書いて頂いたり、本作を原案としたWebtoonの連載化など、とても恵まれた作品になりました。
(海川 まこと/漫画収集家)
























