春樹のスマホ画面には悲痛なメッセージが並んでいた(理系女ちゃん提供)
春樹のスマホ画面には悲痛なメッセージが並んでいた(理系女ちゃん提供)

「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。自分の考え方や行動を1歩引いた視点から見つめ直したり、「自分の感じ方が必ずしも相手と同じとは限らない」と想像したりする力のことです。この力が十分に働かないと、悪意がなくても相手を深く傷つけてしまうことがあります。そんな親子の認識のズレを描いた漫画『友達も彼女もいない息子が心配』(作:理系女ちゃん)がSNSで話題となっています。

物語は、大学の入学式で桜が舞う中、笑顔で並ぶ理想的な親子の姿から始まります。母親は「うちの春樹は最高の息子」と語り、息子の成長を振り返ります。幼い頃から春樹の才能を信じ、夫を説得して進学塾へ通わせた結果、有名な中高一貫の男子校に合格。

反抗期もなく真っすぐに育ち、ついには超有名私立大学へ進学しました。母親は「頭もよくて優しくてかっこいい自慢の息子」と喜びながらも、友達が少ないことや、まだ彼女の気配がないことを少し気にしています。

しかしその一方で、春樹はSNSに「早くこの家を出ていきたい」「毒親に育てられた」と書き込んでいました。

春樹の記憶では、物心ついた頃から勉強漬けの日々です。勉強しなければ母親がヒステリーを起こすため、怯えながら机に向かうしかありませんでした。小学校に上がる頃には自分の家庭が変わっていると気付きましたが、他の選択肢はありませんでした。

テストの点数が悪ければ責められ、友達と遊べば怒られる春樹は「僕は都合のいい人形だった」と振り返ります。さらに今もスマホのアドレスやパスワードまで母親に管理されているのです。

同作は『あなたの正義 わたしの絶望 ~その「主観」が毒になる時~』の一編で、レタスクラブにて連載中です。

読者からは「息子側の母が現実なんだろうな」や「読んでて胸がギュッてなる…」など春樹への同情が多く寄せられました。そんな同作について、作者の理系女ちゃんに話を聞きました。

■前半と後半で大きく印象が変わるように構成

ー母親目線と息子目線の対比が印象的です。描くきっかけや着想について教えてください。

「自分と他者の見え方は必ずしも同じではない」ということを描きたいと思ったのがきっかけで制作しました。

最近、人間関係の中で「メタ認知」の重要性がよく言われるようになってきていると感じています。そうした状況を題材に漫画を描くことで、「自分と他者の関わり方は本当に相手にとってもポジティブなのか」ということを、読者の方が一度立ち止まって考えるきっかけになればと思い、この作品を制作しました。

ー「視点の違い」を表現するうえで意識した点を。

同じ出来事でも、立場や視点が変わると受け取り方が大きく変わるという点が自然に伝わるようにすることを意識しました。登場人物それぞれの感受性や価値観の違いによって、同じ出来事でもまったく違う意味を持ってしまうことが、前半と後半で大きく印象が変わるように構成や演出を工夫しました。

ーこの作品を通して読者に伝えたいことを。

人は悪意がなくても、無意識のうちに誰かを傷つけてしまうことがあります。漫画を読むことを通して、「自分は無意識のうちに誰かを傷つけていないだろうか」「相手はどのように感じているのだろうか」と一度立ち止まって考えるきっかけになればうれしいです。

ー同作以外にもメタ認知について描いた作品はあるのでしょうか?

これまでの作品では、理系という分野をテーマにした漫画も描いてきました。書籍『先輩、実験が終わりません』では、理系に進学すると実際にどのような生活になるのか、研究とはどのようなものなのかといった点を、大学での研究活動を題材にしながら描いています。なので、メタ認知について描いている作品は同作くらいですね。

今後も、理系の世界で起こるさまざまな出来事や価値観について、ネガティブな面だけでなくポジティブな面も含めて、漫画を通して発信していけたらと考えています。

(海川 まこと/漫画収集家)