渡哲也さんからの金言を明かす、徳重聡(撮影:石井隼人)
渡哲也さんからの金言を明かす、徳重聡(撮影:石井隼人)

自動車ディーラーの予定が、気付いたら“21世紀の石原裕次郎”に。

「僕が大学生の時代は、まさに就職氷河期。でも長年のサッカー部経験がものを言いました。体育会系の部活をずっとやっていて、さらにサッカー部の寮暮らしも経験していると、企業側も信頼を置いてくださった気がします」

買い手市場だった平成の就活事情を懐かしむのは、俳優の徳重聡(47)。自動車ディーラーから内定をもらい、サラリーマンとして堅調な道を歩む予定だった。

当時生活していた大学の寮に一本の電話がかかってくるまでは。

■就職先は石原軍団

今から26年前。石原プロモーションが行った新人発掘オーディション『21世紀の石原裕次郎を探せ!』通過の知らせ。いとこが勝手に他薦していたものだった。

「寮に住む電話当番の1年生がその電話を受け取ったことで、私よりも早く寮生の間で噂が広まってしまって。私としては行く気はなかったのに、周りが“絶対に行くべきだ!”と。“俺は行かないぞ”“いや、行くべきだ!”そんな押し問答の末、結局オーディションに行く事になりました」

それが応募総数5万人超の頂点に立つことになるとは。

「就職の面接日とオーディションの審査日が重なる事もありました。そんな時は天秤にかけてオーディションを優先しました。どんどん人数が絞られて最終オーディションにまでたどり着いて。一度の人生だし、石原軍団にかけてみるかと。企業の内定をもらっていた事実もあったので、これがダメでも就活し直せばいいだろうと考えたりして」

徳重が再び就活をすることはなかった。テレビドラマ『西部警察SPECIAL』(2004年)で俳優デビュー。同年5夜連続で放送されたテレビドラマ『弟』では若き日の石原裕次郎を演じた。

華々しいスタートダッシュの反面、“21世紀の石原裕次郎”という肩書の重さを実感する事も。

「デビュー当時はどこに行っても“お手並み拝見”という空気が強かったです。僕を見かけた一般の方がつかつかと近づいて来て、ぶつかるくらいの至近距離で『裕次郎と全然違うじゃん』と言ってきたり。あれは悔しかったです」

■俺たちは孤独だ

そんなプレッシャーをはねのける事が出来たのは、石原プロの大先輩であり社長でもあった渡哲也さんの金言があったからだ。

「一緒に食事をする際に、時々ポロッと私の事を励ますような言葉を言ってくれるんです。『俺たちは孤独だからな』『俳優の勉強も大事だけれど、まずは人として真面目に生きて人として成長しなければ』とか。渡さん含めて石原プロの方々は俳優としてカッコつけるような振る舞いを嫌うというか、威張るような事もなくて。同じ空気を吸ってくれているような感じがありました。そんな社風もあって私自身、外野のきつい態度や言動を気にしなくなっていきました」

石原プロは2021年に58年の歴史を閉じた。徳重は石原軍団イズムを胸に、現在も俳優としてのキャリアを堅実に積んでいる最中だ。公開中の映画『ライフセーバー!』ではライフセービングクラブのリーダーを実直に演じている。

「癖のある人や怖い人の役も多いですが、今作では正統派の良い人を演じることが出来ました。原点回帰という意味も込めて、今の年齢で人間として芯のある人物を演じたらどうなるのか。自分でも挑戦してみたいと思っていたので、とてもありがたい出会いでした。何をやっても説得力のある俳優を今後も目指していきたいです」

俳優業が天職だと実感している。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)