【ビフォー写真】岡山市保健所に収容されていた、保護当時
【ビフォー写真】岡山市保健所に収容されていた、保護当時

 ベッドの上でくつろぐかえでちゃんは“超”がつくビビリ犬。今の家に来て7年以上たちますが、外に出るのは難しく、「私の寝室と広いベランダが彼女の世界です」と、かえでちゃんの家族になった橋本由香里さんは教えてくれました。

 ただ、最初の頃と比べればもちろん変化はあって、昼間は由香里さんのベッドの下から出て来ないそうですが、夜になると布団の上に上がったり、寒い日は布団の中に潜り込んで来ることも。なぜか「夜だけなでなでさせてくれる」と聞いていたのですが、取材直後のある朝、「珍しくなでさせてくれました」というメッセージとともに、ベランダで由香里さんになでられるかえでちゃんの写真と動画が届きました。まるで、自分が記事になることを分かっているかのようです。

 もともと岡山県の山中にいた野犬の子。2018年11月、生後4か月くらいのときにイノシシを捕獲するためのくくり罠にかかり、右後ろ脚を負傷した状態で保健所に収容されました。4日後、岡山市を拠点に犬猫の保護・譲渡活動を行う『一般社団法人ALL AS ONE(オール アズ ワン)』に引き出されたのですが、そこには切実な理由がありました。

■恐怖と痛みから自分の脚を食いちぎったのでは?

「保健所に収容されたのは金曜日。ボランティアさんが脚があることを確認していたそうなのですが、火曜日に行くと脚が血だらけで先がなくなっていました。岡山市保健所の収容施設は地下にあって、光が入りません。金曜日の夕方に職員が帰ると、月曜日の朝まで漆黒の闇。その中で恐怖と痛みから自分の脚を食いちぎったんじゃないかと…。その日にすぐ引き出しました」(ALL AS ONE代表・田村江里子さん)

 月曜日に出勤した職員は、ケージ内に血があることには気づいたけれど、かえでちゃんが隅で固まっていて後ろ脚も隠れていたため、まさか先がなくなっているとは思わなかったそうです。保健所を出て動物病院へ直行したかえでちゃんは、右後ろ脚を断脚することになりました。

 約1週間で退院し、田村さんの職場や預かりボランティアさんの家で静養したかえでちゃん。最初は不安そうにしていましたが、他の保護犬たちと打ち解けて元気になり、預かりボランティアさん宅に行く頃には、3本脚でしっかり動けるようになっていました。

 橋本家に迎えられたのは12月下旬。ALL AS ONEから来たならくんという先住犬がいて、そのご縁で岡山から愛知までやって来ました。3本脚であることに不安はなかったのでしょうか。

「断脚したからこそ大事にしてあげたいと思い、譲り受けました。かえでちゃんは、3本脚ということでより逞しいです。人間が気にすることがおかしいくらい普通で、してあげることと言えば、断脚した方の体を時々かいてあげるくらい」と由香里さん。確かに、そこにフォーカスし過ぎる必要はないのかもしれないと、取材しながら反省しました。

 今は3匹の同居犬と暮らすかえでちゃん。橋本家に来てから今の名前を付けてもらいました。

「すごくべっぴんさんで、瞳の美しい子でした。和風の名前が合うなと思い、いろいろ考えた中で、呼びやすく、雰囲気が合っていると思って付けました」(由香里さん)

 その瞳には、ご家族のやさしい笑顔が映っているに違いありません。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)