中学受験、本番を前に限界を迎える子も
中学受験、本番を前に限界を迎える子も

■華やかな合格実績の裏で起きていたこと 

東京都在住のNさん(40代)は、息子が小学3年生から中学受験塾に通い始めたことで、それまで知らなかった現実を目の当たりにしました。

入塾説明会では、「御三家を目指します」「大学受験を見据えて難関校へ」といった言葉が飛び交い、会場には独特の熱気が漂っていました。保護者たちは合格実績に目を輝かせ、大手塾で頑張れば、御三家を目指せるものだと思っていたそうです。

しかし、学年が上がるにつれて教室の風景は少しずつ変わっていきました。

■気づけば増えていた空席

小学4年生になると教科数が増え、宿題も一気に増えました。 

平日は学校と塾、家を往復し、塾のない日は課題に追われる生活です。週末はテストと復習で終わり、子どもたちの毎日は受験中心になっていきました。

そんな中、保護者の間で増え始めたのが「あの子、最近見ないね」という会話でした。

最初は転塾かと思っていましたが、実際には受験そのものを辞める家庭も少なくなかったのです。

「宿題が多すぎて親子ともに疲れ切ってしまったそうです」 

小学5年生になる頃には、そうした話は珍しくなくなっていました。

■最難関校を目指していた家庭の撤退

Nさんが特に驚いたのは、当初から最難関校を目指していた家庭が突然受験を取りやめたことでした。

その家庭は成績も良く、親子ともに意欲的でした。しかし、ある日を境に塾で姿を見なくなったのです。

後から聞いた理由は、「本人がもう限界だったから」。

毎週のテスト結果に一喜一憂し、勉強中心の生活を続けるうちに、子どもの心が耐えられなくなってしまったといいます。

中学受験では華々しい合格体験が注目されがちですが、その途中で別の進路を選ぶ家庭も少なくありません。Nさんは、華やかな合格実績の裏にある現実を初めて知りました。

■「辞められて羨ましい」と思ったことも

一方で、受験を続ける側にも複雑な感情があります。

小学6年生になる頃には、Nさん自身も送迎や弁当作り、テスト結果の確認に追われ、疲れを感じるようになっていました。 

そんなとき、中学受験から撤退して公立中学進学を選んだ家庭の話を聞くと、「もう週末のテストを気にしなくていいんだ」と少し羨ましく思ったそうです。 

もちろん、それぞれの家庭に悩みがあります。それでも受験レースから降りた人たちが少し自由に見えました。

しかし、ここまで費やした時間やお金を考えると、自分たちも簡単には引き返せません。

「辞めたいわけではない。でも辞めた家庭を見ると少しだけ羨ましい」

受験本番が近づく中、最後まで残った子どもたちを見ながらNさんは思いました。

中学受験という世界は、合格者の数だけでは語れないのだと。 

(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)