高市政権の誕生以降、日本と中国の関係は改善に向けた明確な兆しがなかなか見えないまま、依然として厳しい状況が続いている。中国政府は高市政権が掲げる安全保障政策や外交姿勢に対して強い警戒感を抱いており、外交面での批判や抗議などを強める場面もみられる。
だからといって、日中関係を全面的な対立へと転換させるような過度な対日強硬策を常に選択しているわけではない。中国が一定のブレーキをかけざるを得ない背景には、大国としての外交的コストと、国内経済をめぐる切実な現実が存在している。
■必要以上に激化させたくない日本との対立
第一の理由は、大国としての国際的な立場を維持する必要性である。中国自身も世界的な大国としての地位を強く意識し、「一帯一路」などを通じて世界各国における経済的、外交的な影響力を拡大してきた。しかし、国際社会におけるプレゼンスや発言力が大きくなるほど、中国には大国としての国際的な信用や責任ある外交姿勢が求められることになる。
仮に日本に対して感情的かつ露骨な対抗措置や報復的な圧力を繰り返せば、グローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国を含む国際社会からの警戒感を高める可能性がある。それは、中国が国際社会において構築してきた外交的影響力にも影響を及ぼしかねない。とりわけ中国が米国との戦略的競争を続ける中では、日本との対立を必要以上に激化させることが、結果として中国自身の外交的な選択肢を狭める可能性もある。
■日本は重要な経済パートナー
第二の理由は、日本が依然として中国にとって重要な経済パートナーの一つであることである。中国国内では、かつての高度成長期のような勢いが弱まり、不動産市場の低迷や内需の弱さなど、経済をめぐる課題が続いている。雇用、とりわけ若年層の雇用をめぐる問題も、中国政府にとって無視できない課題となっている。
こうした状況で、日本との経済関係まで急激に悪化させれば、中国国内の企業活動や雇用、サプライチェーンにも悪影響が及ぶ可能性がある。日中間には貿易だけでなく、製造業、部品・素材、物流、投資など幅広い経済的な結びつきが存在する。もちろん中国経済は日本だけに依存しているわけではない。しかし、米中対立や世界経済の不確実性が続くなかで、重要な経済関係を自ら大きく毀損することには相応のコストが伴う。
第三に、中国にとって日本との関係は、経済だけでなく安全保障上の観点からも単純に切り離すことができない。日本は米国の同盟国であり、インド太平洋地域における米国の戦略において重要な位置を占めている。そのため中国にとって、日本との対立を全面化させることは、単に日中二国間の問題にとどまらず、米国を中心とする地域の安全保障協力をさらに強化させる結果にもなり得る。
■圧力と抑制の絶妙バランス
つまり、中国にとって重要なのは、日本に対して何もしないことではなく、必要な圧力を加えながらも、対立が自国にとって不利な水準まで拡大することを避けることである。外交的な抗議や警告などによって自国の立場を示す一方、経済や安全保障を含む幅広い分野で全面的な対立を招くことは回避する。この「圧力と抑制」の組み合わせこそ、現在の日中関係を読み解くうえで重要な視点である。
このように、高市政権の下で日中間の政治的・外交的摩擦が続いているとしても、中国が必ずしも全面的な対立を選択するとは限らない。その背景には、国際的なイメージや外交的影響力への配慮に加え、国内経済への悪影響を抑えたいという現実的な計算がある。
日中関係は今後も安全保障をめぐる緊張と経済的な相互依存が併存する「競争と協調」の関係が続く可能性が高く、中国にとっても日本との対立をどこまで管理するかは重要な戦略的課題となるのである。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長 専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。























