遺言書を書いた人のなかには「ずいぶん昔に遺言書を書いたから一安心」と、そのまま何年も引き出しに眠らせてはいないでしょうか。時間の経過とともに家族構成や保有する財産、人間関係が変化しているにもかかわらず、古い遺言書を放置していると思わぬトラブルの原因となります。
では、具体的にどのようなトラブルの原因となるのでしょうか。状況にそぐわない遺言書が招くリスクや、正しい書き直しのポイントについて、北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
■いつでも撤回や変更が可能
ー1度作成した遺言書を後から自由に変更・撤回できますか?
遺言書は、遺言者が生存し遺言能力がある限り、内容を何度でも自由に変更したり撤回したりできます。以前に公正証書遺言を作成していた場合でも、後から自筆証書遺言で内容を書き直すことは可能です。
法的には「より新しい日付の遺言」が優先されるため、作成時の形式にこだわる必要はありません。自身の気持ちや生活状況の変化に応じて、いつでも撤回や変更を行える自由が保障されています。
ー状況が変わったのに古い遺言書を放置するとどうなりますか?
財産の状況や家族関係が変化しているにもかかわらず、古い遺言書を放置しておくと、遺族間で深刻なトラブルに発展するおそれがあります。たとえば、すでに売却して手元にない不動産が遺言書に記載されたままになっていたり、離婚・再婚・親族の死亡といった環境の変化が反映されていないケースなどが典型です。
不動産を生前に売却しており、死亡時点で遺言者の所有ではなくなっていた場合には、遺言書に記載があってもその部分は撤回されたものとみなされます。
また、離婚によって夫や妻の地位を失った者に対する相続や遺贈の記載がある場合、それが「配偶者としての地位」を前提としたものなのか、「その人物個人」に対するものなのか解釈が分かれ、争いの原因となることがあります。
さらに、遺贈や相続を予定していた親族が先に死亡していた場合、その親族の相続人に財産が承継されるわけではなく、その部分は無効となります。
このように、遺言者の現在の状況や真意と食い違う古い遺言書を放置すると、遺族が困惑したり、不要な争いに巻き込まれたりする危険があります。定期的に内容を見直し、状況に応じて更新しておくことが重要です。
ー複数の遺言書が見つかった場合どれが優先されますか?
複数の遺言書が見つかった場合、原則として「最も日付が新しい遺言書」が優先されます。自筆証書遺言か公正証書遺言かといった作成形式の違いにかかわらず、日付の新しい遺言が、古い遺言を撤回したものとみなされます。
ただし、古い遺言書の内容の一部が新しい遺言書と矛盾しない場合には、矛盾していない部分については古い遺言書も効力を維持します。そのため、複数の遺言書が存在すると、どの部分が有効かを判断する際に手続上の混乱が生じることがあり、注意が必要です。
ー家族関係の変化に合わせて遺言書を書き直す手順を教えてください。
家族関係の変化に合わせて遺言書を書き直す際の最も確実な方法は、新しい遺言書を作成し、その中で「本遺言作成以前の遺言をすべて撤回する」旨を明確に記載することです。古い遺言書を手元で破棄することも撤回とみなされますが、公正証書遺言の場合は原本が公証役場に保管され続けるため、文章で撤回を明記しておく方が確実です。
また、財産目録や親族関係は時間とともに変化するため、定期的に内容を見直し、状況に変化があったタイミングで専門家に相談しながら新しい遺言書を作成し直すことが、後のトラブル防止につながります。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1000件以上の遺言相続手続きを担当し、3000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























