いつもの日常を過ごしていると、不意にどこか違う場所へ行ってみたくなることがあるでしょう。ほんの少し日常から離れるだけでも、気分転換になることは多いようです。
エッセイ漫画を描いているふたにさんは、仕事が手につかず、思い立って海へ向かった日の出来事を作品『仕事をサボって海に来ている』として描いています。
それは、平日のある日の午後のこと。作者は何もない海に1人で来ていました。さかのぼること数時間前、いつも通り仕事をしていたものの、心が落ち着かず仕事が手につかなくなってしまいます。
そこで作者は、仮病を使って早退することに。そして、以前仕事帰りに見た海行きの電車のことを思い出した作者は、その電車に乗り込みます。途中のスーパーで太巻きを買い、海岸で食べながら読書をして、ゆっくり過ごそうと思っていました。
ところが、いざ太巻きを食べていると、近くにトンビが飛んできます。どうやら食べ物を狙っているようで、ゆっくり味わっている場合ではありません。気を取り直して本を読もうとすると、今度は潮風で砂が舞い上がり、本にまで砂がかかってしまいます。思い描いていた優雅なひとときとはほど遠く「思っていたのと違う」と感じた作者は、家に帰ることにしました。思い通りにいかず、悩みが消えたわけでもなかったものの、窓越しに海を眺めながら帰るうちに、「海に行ってきてよかったな」と感じるのでした。
読者からは「自分も休…さぼっていつもと違う方の電車に乗り、ぼけぇとしてました。これがいいんです」「私も昔、思い立って2時間半かけて海に行ったことがあります。駅で降りてから海まで30分歩き、チラッと見て帰りました。海よりも道中の美しい風景をよく覚えてます(笑)」など、多くの共感の声があがっています。そんな同作について、作者のもふたにさんに話を聞きました。
■リフレッシュの切り札だった、海への小さな旅
ー仕事が手につかなかったとのことですが、そのときはどのような気持ちだったのでしょうか?
何をするにもやる気が起こらず、焦るような、もどかしいような気持ちでした。ちょうど仕事で煮詰まっていた時期でもあり、「ここから逃げ出したい」という気持ちもあったように思います。
ー以前、海行きの電車の掲示板を見たときに、いつかは行ってみたいと思っていたのでしょうか?
「いつか行こう」と漠然と思っていました。電車に乗りさえすれば海に行ける距離に住んでいたこともあり、いざというときに日常から離れるための「リフレッシュの切り札」のように考えていた気がします。
ー実際に海へ行ってみて、思い描いていた時間とのギャップをどう感じましたか?
青い空、白い雲、遠くに見える水平線…そんな情景を思い浮かべながら海へ向かったのですが、実際に眼前に現れたのは、どんよりと曇った空とグレーの海。おまけにトンビはいるし、砂は巻き上がるしで、世間でよく言われる「海に行けば全部解決」のようなイメージにツッコミを入れたい気持ちでした(笑)。全然そんなことないじゃん!と。
ー悩みが消えたわけではなかったものの、行ってよかったと思えたのはどうしてだったのでしょうか?
散々な海体験だったわけですが、どういうわけか、それらもひっくるめて「良い思い出」になりました。思い切って電車に乗り、実際に海まで行ってみたことで、「いざとなれば、自分はここではない別の場所へ逃げることができる」と分かったからです。悩みそのものが解決したわけではありませんでしたが、日常から一旦離れるという選択肢を自分が持っていると知れたことは、その後の自分を支えてくれる経験になったように思います。
(海川 まこと/漫画収集家)























