須磨マンスリー
「須磨駅近くの高台」「藤田ガーデン」「藤田男爵」「古き時代の社交場」「今はマンション」-。投稿にあるキーワードを頼りに取材を進め、たどり着いたのが、長州出身で明治時代の実業家・藤田伝三郎(1841~1912年)の別邸(神戸市須磨区潮見台町)だ。今はれんが色の大規模マンションになっているが、明治期には政財界人を招く迎賓館として、戦後は御婦人らが集う社交場として名をはせた。御殿と庭園合わせ敷地の広さは何と約8千坪とも。その面影を探った。(長沢伸一)
NPO法人「須磨歴史倶楽部」の西海淳二さん(67)と一緒に跡地を巡りながら説明を受けた。
「藤田男爵と呼ばれ、大阪で鉄道建設や琵琶湖疏水工事、鉱山、紡績、電力、銀行などの近代的新事業を立ち上げた実業家。神戸では山陽鉄道(現JR山陽本線)建設や湊川付け替え工事の実績がある」
-なぜ須磨に別邸が?
「山陽本線を見下ろす高台に御殿を造りたかったのでは。ただ男爵の死後、迎賓館として使われることは少なくなったようだ」
□
別邸が再び脚光を浴びるのは戦後のこと。
「須磨の人々の記憶に残るのは、昭和30年代に別邸の御殿や庭園を活用し、オープンした『藤田ガーデン』ではないか」と西海さん。当時のパンフレットを神戸大学大学院の梅宮弘光教授が持っており、話を聞いた。
「御婦人方のパラダイス」。パンフレットのうたい文句に目を奪われる。
須磨の海、淡路島を一望できる施設内には、御婦人だけで使えるバンガローやビアガーデン、御殿式サロンなどがあった。花見や避暑、月見、クリスマスといった四季折々のイベントに加え、ダンスやハワイアンパーティーも開かれていたという。
-なぜ「御婦人方のパラダイス」だったのか。梅宮教授はこう説明する。
「鉄道の発展に伴い、繁華街に男性の娯楽施設が数多くできた。それと一線を画したのが藤田ガーデン。パンフレットに『特に仲居さん芸妓さんを一切排しました新しい品格の-』とあるように、御婦人方に優雅で上品な社交場を提供するのが狙いだったのではないか」
正式な時期は不明だが、昭和40年代には閉鎖され、阪神・淡路大震災後に建物も解体された。
□
藤田邸跡地から歩いて数分のところにある潮音寺(須磨区潮見台町5)には、藤田が須磨の別邸を建てた際、奈良県天理市から移したとされる高さ2メートル超の石仏がある。
1938年の阪神大水害で、庭園が崩れ土砂とともに流出。その後、70年にこの石仏をまつることを条件に同寺が建立されることになったという。
これが唯一、藤田男爵邸の栄華を今に伝える遺構となっている。
【読者からの投稿】須磨区で気になっているのが藤田ガーデン(私たちはこう呼んでいました)です。JR須磨駅近くの高台にあった男爵の別荘あるいは居住地でした。子どものころ、親戚と淡路島を見ながら食事をしたり、散歩をしたり。庭園の芝生を眺めながら立食パーティーをした記憶もあります。学生の時には御膳を運ぶアルバイトもしました。古き時代の社交場の一つでした。マンションに変わった姿を何年も後に目にしたときには、年月の経つ早さを感じました。
2019/6/25男の料理教室や建物再生 須磨ニュータウンであれこれ取り組み2019/8/3
「若々しいイメージ」 須磨ニュータウンの呼び名に反応さまざま2019/8/3
須磨ニュータウン、何故“ニュータウン”? あくまで俗称2019/8/3
春は桜、秋は紅葉 学校敷地に自慢の「森」 神戸・飛松中2019/8/2
実はICタグで効率化 JR神戸貨物ターミナル駅へ潜入!2019/8/1
福島の児童ら神戸でキャンプ 須磨の民家でゲームや夕食楽しむ2019/7/31
古い住宅をリノベーション シェアハウスで活性化 神戸・須磨2019/7/29
板宿の市場で「はじめてのおつかい」 女性運営するレンタルスペース2019/7/28
さながら“学校”のよう 神戸最大規模の横尾老人クラブ 2019/7/27
妙法寺に変わった言い伝え 那須与一に関わるその意味とは2019/7/26
安全守る機動隊の最前線に密着 新人記者も訓練体験2019/7/25
就労支援事業所が運営のうどん店 障害者と支援員で生み出す活気2019/7/24
多世代の交流目指す老人ホーム 神戸・須磨の「きらくえん」2019/7/23
菓子で人生を豊かに パティシエの西川健司さん 神戸・須磨2019/7/23
大学生グループがマンションで野菜販売 5年後に本格事業化へ2019/7/19
ICTですべてが変わった神戸・若草小 児童にも好評価2019/7/20
たどり着けない? 須磨の名所「白川の夫婦岩」2019/7/18
高齢読者らの安全をポストで確認 本紙名谷中央専売所2019/7/17
神戸・須磨の“桃源郷” 先祖代々の土地守る稲作農家2019/7/15
昼はカフェ、夜は居酒屋に“変身” 高齢者ら集う福祉施設の喫茶スペース2019/7/14
記念の銘板や時計 世界の青春伝える“遺構”とは 須磨2019/7/13
震災乗り越え親子3代で紡ぐ歴史 神戸新聞名谷北専売所2019/7/12
待機電車や懐かしの車両も 名谷車両基地の写真映えスポット2019/7/11
「めったに見られない」地下鉄支える車両基地に潜入 神戸2019/7/10
鉄道模した名物カレー、レシピ引き継ぐ 店内には模型も 神戸2019/7/8
“名谷人”のソウルフード トミポテの魅力って何?2019/7/7
日本で唯一、地下鉄と新幹線の“交差点” 神戸・須磨2019/7/6
ここにもあった「BE KOBE」 市営地下鉄・名谷駅前広場2019/7/5
マンション群を移動する八百屋 神戸・北落合2019/7/4
須磨マンスリーのPRイベント開催 神戸発のアイドルグループも登場2019/7/2
豊かな自然と素敵な“イチオシ”3店 神戸・多井畑で街歩き2019/7/1
学校名の“台”過去に論争? 神戸・須磨の高倉台小と高倉中2019/6/30
土日は光景一変 六甲全山縦走路ルートの高倉台近隣センター2019/6/29
まるで地下につくられた神殿? 神戸開発支えた須磨ベルトコンベヤ跡地2019/6/28
本紙掲載「須磨マンスリー」1日、PR催し2019/6/28
山が歩んだ海への道 「須磨ベルトコンベヤ跡地」をたどる2019/6/27
大半は業務用 スーパーで目にすることない「須磨海苔」とは2019/6/26
幻の社交場、藤田ガーデン 神戸・須磨にあったその面影探る2019/6/25
職人の気概感じる曲線建築 北須磨小の円形校舎2019/6/24
須磨を移動する謎のゴリラ? 正体は海賊船のクルー2019/6/22
巣鴨にも負けない高齢者らの“聖地” 須磨寺の「大師縁日」2019/6/21
存亡の危機、歴史ファンに人気「敦盛そば」 神戸2019/6/20
きつね、一の谷、須磨離宮前 新聞配達員泣かせる“須磨の坂”2019/6/19
くだらないことをまじめに sumagine生みの親2019/6/18
一人でステージ完結 各所にひっぱりだこな須磨のスター2019/6/17
神戸研究や英語の合唱も 須磨学園中・高が文化祭2019/6/16
東北支援へ石巻のワカメ販売 滝川中・高で学園祭2019/6/16
モルガンお雪も住んだ「異人山」 当時の灯籠、今も2019/6/15
魚は増えているが閉園状態 須磨海づり公園の今をレポート2019/6/14
「心揺さぶられる体験できる」 すまうら文庫運営の林さん2019/6/13
「乗り心地の悪さが評判」 日本で唯一の「カーレーター」乗ってみた2019/6/12
イルカ人工授精で妊娠5カ月 スマスイ、出産までシュミレーション重ねる2019/6/11
須磨の海、生態系豊かに スマスイ園長が“里海”づくり2019/6/9
アカミミガメ増加に危機感 スマスイが独自の取り組みで警鐘2019/6/8
ナスの腰掛けや毎月変わる御朱印 ユニークな須磨の綱敷天満宮2019/6/7
地中海の海底から発見?紀元前5世紀作? 謎多い森の中のポセイドン像2019/6/6
須磨海岸で地引き網漁に挑戦 豊富な種類に小学生歓声2019/6/5
何これ?置物たくさん 神戸・須磨寺「おもろいもん巡り」2019/6/5
楽しんで仏教触れて 催しで地域交流 神戸・須磨寺2019/6/4
趣向凝らして国際交流 「スマプラ!」立ち上げ人の高橋さん2019/6/4
法話の技競う 丹波篠山・長楽寺住職がグランプリ 神戸・須磨寺2019/6/3
「自殺思いとどまった」YouTubeで法話配信 神戸・須磨寺2019/6/2
芭蕉も渋った? 敦盛の笛「高すぎる拝観料」 現代では無料に2019/6/1
1100年超の歴史持つ須磨寺、正式名称は上野山福祥寺2019/5/31