須磨マンスリー
「家づくりを通して街づくりを」。妙法寺川から北東に広がる神戸市須磨区板宿付近の住宅街で、こんなプロジェクトが進んでいる。中心は船会社にルーツを持つ不動産業者「大和船舶土地」(同市中央区)。古い住宅を壊さずにリノベーション(建物の再生)し、街に根付いた「生活」「文化」を変えずに学生や若者を呼び込むのが狙いだ。神戸芸術工科大学の教授や学生も加わり、産学連携を深めている。(伊田雄馬)
「築38年の文化住宅を再生しました」と鈴木祐一社長、その名も「鈴木文化シェアハウス」(須磨区禅昌寺町1)。もとは1階と2階に4室ずつの計8室のアパートだったが、2013年に一部を改装し、学生が暮らせるシェアハウスに姿を変えた。手を加えていない5室には今も旧来の住人が暮らしている。
窓を大きく取った共用スペースには陽光が差し込み、家の前を走る生活道路とつながっているよう。中央には大きな机があり、カフェのような落ち着きのある雰囲気だ。学生たちはこの場所を通り、各自の個室へと向かう。
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同社は1960年設立。海運業を営む傍ら、数十戸のアパートも保有する“水陸両用”の事業形態だった。しかし、海運不況を受けて73年に海運業を廃業し、不動産業に専念した。現在は神戸市内に多くのビルや住宅などを所有する。
板宿周辺は鈴木家が古くから住み、思い入れが深い場所。約30カ所の所有物件を使い「街づくりに貢献できないか」と09年、大学時代の同級生で同大環境デザイン学科の川北健雄教授に受託研究を働き掛けた。
川北教授は同学科の花田佳明教授やゼミの学生らと地域をくまなく歩き、魅力を探った。見えてきたのは、手狭な住宅街だからこそ育まれた住民意識。「家の窓から道路に向けて好きなものを展示するなど、道路を自分の庭のように感じているのが面白い」と学生たちは言い、その流れを壊さぬよう「街とつながる家」が再開発のコンセプトに決まった。
その第一歩として生まれたのが同シェアハウスだ。大和船舶土地と同大、民間の設計事務所が協力して形にした。三つの部屋はいつも同大の学生で埋まっている。1年ほど前に入居したプロダクト・インテリアデザイン学科4年の多木翔夢さんは「犬の散歩をしている人と気軽にあいさつしたり、地域活動に参加したりするのが楽しい」と話す。
「古いものをまっさらな新しい建物に置き換えていくのが再開発だと思っていた。学生らの発想に驚かされた」と鈴木社長。その後も古い物件を再生し、パン屋だった家は当時の面影を残し、ベンチや落書き用の黒板を置いて交流拠点とするなど、随所に工夫を凝らす。
新たに生まれ変わった家には学生や、地域活動に関心を示す人たちが入居するようになり、長く途絶えていた餅つきが3年前に復活。地域住民を招いたお茶会を企画する入居者も現れた。川北教授は「あらゆる街で同じことができ、多くの可能性を秘めたプロジェクト」。鈴木社長も「古い建物には街の“記憶”が息づく。これからも広げていきたい」と笑顔を見せる。
高齢化が進む街に新たな風が吹き込み始めている。
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