実家の鮮魚店で書店を兼業する北野洋子さん。兄と姉が手がけた本や魚の料理本を手に「地域の人に読書の喜びを」と話す=南あわじ市志知佐礼尾
実家の鮮魚店で書店を兼業する北野洋子さん。兄と姉が手がけた本や魚の料理本を手に「地域の人に読書の喜びを」と話す=南あわじ市志知佐礼尾

 気になる。鮮魚店なのに、なぜか新刊書の棚がある。1冊を手に取って会計に向かうと、レジの女性いわく「これ、兄がつくった本なんです」。まさかの謎が謎を呼ぶ展開。興味をそそられ、詳しい話を聞いてみた。(劉 楓音)

■3年前に帰郷、読書が趣味だったが…

 店の名は「さかな食堂 フレッシュきたの」(南あわじ市志知佐礼尾)。新鮮な魚介類のほか、煮付けや天ぷらなどの総菜も扱う。食堂も併設しており、海鮮丼や定食が評判だ。

 その一角に本棚がある。魚や海に関する本のほか、吉本ばななさんの小説や向田邦子さんのエッセー、レシピ本や絵本など約80冊が並んでいる。

 「ここに住む人の楽しみになればと思って」。そう答えてくれたのは、店員の北野洋子さん(35)。店を経営する信司さん(65)の次女だ。

 もともと読書が趣味だった。福岡県で就職していたが、3年前に店を手伝うために帰郷。「本屋も映画館もなく、娯楽が少ないなと思った」といい、2年前から新刊書を置き始めた。

 韓国のノーベル賞作家ハン・ガンさんらお気に入りの著者を中心に、自ら選んで仕入れているが、中には町の書店では見かけないような、個性的な本もある。その一つが、ひとり出版社「素粒社」(神奈川県)の刊行物だ。

 洋子さんの兄・太一さん(38)は編集者。大学進学で上京し、詩歌関連の出版社で勤務した後、2020年に起業した。

 これまで約20点を出版。気鋭のエッセイスト古賀及子さんが武田百合子さんの名著「富士日記」を読み解いた「おかわりは急に嫌」、毒舌の古道具店主・川井俊夫さんがつづる私小説「金は払う、冒険は愉快だ」などラインアップは多彩だ。

 「兄だから、ではなく、いい出版社だなと思って本を置いています」

 実は、姉の亜弓さん(40)は装丁家。きょうだいで手がけた句集など、思わず手に取りたくなるビジュアルのものもある。

 ランチの待ち時間などに立ち読みをするのもOK。「ここに来たら、おいしい、楽しい、面白いと思ってもらえたらうれしい」

 営業は午前9時~午後7時。水、木曜定休。詳細は公式インスタグラムで。