ルーツが揺らぐ芦屋市立図書館打出分室=芦屋市打出小槌町
ルーツが揺らぐ芦屋市立図書館打出分室=芦屋市打出小槌町

 作家の村上春樹さんや小川洋子さんの作品に登場する兵庫県芦屋市立図書館打出分室(同市打出小槌町)のルーツに新説が浮上している。従来の通説とは違う建物の可能性を建築家が指摘し、市教委も再調査を決めた。重厚な石造りの館はどこから来たのか‐。文学ファンの関心を呼びそうだ。(霍見真一郎)

 同分室は鉄筋コンクリート2階建てで国の登録有形文化財。1930(昭和5)年、実業家松山与兵衛氏が銀行だった建物を美術品収蔵庫として現在地に移築、市が買い取り54年に図書館となった。

 村上さんはデビュー作「風の歌を聴け」で「古い図書館」として取り上げた。読者メールへの返信などをまとめた「少年カフカ」でも「昔よく利用しました」「なかなかいいところ。存続してほしい」と振り返った。

 また、小川さんも「ミーナの行進」で「蔓(つる)草が壁面を這(は)い、古めかしい両開きの扉には中国風の飾りがはめ込まれていた」と、細かく描写している。

 分室のルーツは、芦屋郷土誌(63年刊)に「逸身銀行」の誤記とみられる「逸見銀行」の記述があるため、明治期建築の同銀行が通説となっていた。

 しかし、大阪芸術大学の山形政昭教授(建築史)が1990年ごろ、分室と酷似した「東京貯蔵銀行大阪支店」の写真を「大大阪画報」(28年刊)で発見。さらに昨年、分室の保存改修の中心メンバーだった建築家姉川昌雄さん(73)が明治期の地籍簿を調べ、角地にあったとみられる分室に対し、逸身銀行は両側を建物に挟まれていたことが分かった。

 一方、13(大正2)年設立の東京貯蔵銀行大阪支店は逸身銀行の2軒隣の角地にあり、20年に別の場所に新築された。姉川さんは「残された建物が移築されたのでは」とみる。

 芦屋市教委生涯学習課は「新たなルーツの可能性に驚いている。姉川さんと協力して調査したい」としている。