神戸市北区で2017年7月、祖父母と近隣住民ら5人を殺傷したとして、殺人などの罪に問われ、一審神戸地裁で無罪判決を受けた無職の男性被告(32)に対する控訴審の判決公判が25日、大阪高裁であった。坪井祐子裁判長は「責任能力の判断に不合理な点はなく、事実誤認はない」と指摘。心神喪失状態だった可能性が残るとした一審判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。
高裁判決によると、男性は17年7月16日早朝、自宅や周辺で祖父母=いずれも当時(83)=や近くに住む女性=同(79)=を包丁で突き刺すなどして殺害。母親(59)や別の女性(71)に重傷を負わせた。
控訴審は一審と同様、起訴事実に争いはなく、刑事責任能力の有無が争点となった。起訴前に被告の精神状態を調べた鑑定医2人が意見を述べたが、被告が被害者を人と認識していたのかや、妄想などの影響の程度について見解が割れた。
検察側は、一審判決が採用した「精神疾患による妄想などの圧倒的な影響下にあった」とする鑑定医の説明に対し、「被告には妄想を疑う力があった」と、もう一人の鑑定医の意見を踏まえ、反論した。
坪井裁判長は鑑定内容などを比較し、採用された鑑定医の見解を覆す根拠がないと指摘。「責任能力の判断は、被告が妄想を確信していたことを前提とすべき」とし、「同鑑定に基づく結論は相当」とした。
一審判決は、被告は精神疾患による妄想などの圧倒的な影響下にあった疑いがあると判断。自分たち以外の人を、自我や感情のない「哲学的ゾンビ」と認識し、ゾンビを倒すことが結婚への試練という妄想を信じ、事件を起こしたとした。心神喪失状態だった可能性が残ることから責任能力を否定し無罪を言い渡していた。













