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京都展の会場風景。鑑賞者が横に座れる《平和の少女像》の後ろには針金などを使ったインスタレーション「Requiem-鎮魂歌-」を設置。紙のチョウを観覧者が飾る参加型の展示となった=2022年8月6日、京都市内
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京都展の会場風景。鑑賞者が横に座れる《平和の少女像》の後ろには針金などを使ったインスタレーション「Requiem-鎮魂歌-」を設置。紙のチョウを観覧者が飾る参加型の展示となった=2022年8月6日、京都市内
「神戸展が、人々が歴史をきちんと見つめ、差別のない社会と平和を築く一歩になれば」と話す実行委員の男性=神戸市内
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「神戸展が、人々が歴史をきちんと見つめ、差別のない社会と平和を築く一歩になれば」と話す実行委員の男性=神戸市内
「表現の不自由展かんさい」会場付近には反対派の街宣車が多数集まり、警察官が警戒した=2021年7月16日、大阪市内
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「表現の不自由展かんさい」会場付近には反対派の街宣車が多数集まり、警察官が警戒した=2021年7月16日、大阪市内

 検閲や忖度(そんたく)によって公共施設で展示拒否された作品を並べる「表現の不自由展KOBE」(神戸展)が9月10、11日、神戸市内で開かれる。市民らの実行委員会が主催。これまで企画された「表現の不自由展」は各地で妨害を受けた。混乱を理由に施設側が会場の利用許可を取り消したが、司法判断で開催に至ったケースもあった。神戸展では「歴史と女性の人権」をテーマに、民主主義に不可欠な表現の自由を世に問う。(片岡達美、小林伸哉)

 神戸展実行委員の男性(54)は昨年7月、「表現の不自由展かんさい」(大阪市)にも関わった。入り口には金属探知機が設置され、会場周辺には街宣車が何台も押し寄せ、大音量のスピーカーで「出て行け」などと叫んでいた。「美術展くらい普通に見せてよ」と、やるせない気持ちになったという。

 旧日本軍の従軍慰安婦問題に関心を寄せてきたこの男性は1990年代から、被害者支援を続けてきた。「かんさい展」への妨害を目の当たりにして「このままだと被害を受けた彼女たちの存在、一生懸命訴えてきたことがなかったことにされかねない」と、神戸展開催を決意した。

 「表現の不自由展」はさまざまなテーマの作品を取り上げているが、神戸展では「従軍慰安婦」と「天皇制」に焦点を当てる。最も激しく攻撃されてきた領域だけに「なぜ不自由にされるのかを正面から問い、表現は自由であるべきと示したい」と語る。「作品を見てどう感じるかは見る人の自由。反対の思いを示してもらってもいい。ただ、見て感じることまで封じてしまうのはおかしい」と訴える。

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 毎回注目を集めるキム・ソギョンさんとキム・ウンソンさんによる《平和の少女像》も出品される。慰安婦問題を問いかける作品で、隣には椅子が置かれ、観客が座って触ることができる。男性は同じ作者の少女像があるソウルの在韓日本大使館前も訪ねた。「男性が座っていいのかとためらったが、『ちゃんと向き合わなければ』と思わせてくれた。見る者を変える力がある作品」と感じたという。「それぞれの作品には人格があって、訴えてくる。ぜひ『会いに』来てほしい」と男性は語る。

 2015年の東京での初開催時から各地の不自由展に関わる編集者、岡本有佳さんも「少女像を直接見て、初めて感じられることがある」という。「実際に見てよかった」「これのどこが悪いのか分からない」といった感想が多く寄せられたという。

 神戸展では安世鴻さん、大浦信行さん、クォン・ユンドクさんら作家16人の写真、彫刻、映像、絵画など約25点を展示予定。不自由展としては初めての作品もある。

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 「表現の不自由展」に対し、美術作品は「心地よいもの」「美しいもの」であるべき、という批判の声も寄せられた。しかし美術史を振り返ればマルセル・デュシャンの代表作「泉」(1917年)は男性用小便器を横倒し、署名を入れただけのもの。展覧会への出品を拒否されたが、今では「現代美術の出発点」と評価されている。

 デュシャンは「絵画は灰色の物質、つまりわれわれの知性に関わるべきだ」と言った。美術ジャーナリストの小崎哲哉さんは著書「現代アートとは何か」で「強烈な感覚的インパクトと高度に知的なコンセプト(発想)を持ち、観客をコンセプトに導くための仕掛けを重層的に備えたのが優れた現代アート」と説明している。「表現の不自由展」の出品作も知的なコンセプトを持ち、観客に強いインパクトを与える。いかにも現代アートらしい作品群といえそうだ。

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 神戸展は完全予約制で1200円。50分ごとに入れ替え、現時点では会場非公開。チケット購入は8月末まで(売り切れ次第終了)。オンラインチケット販売「Peatix(ピーティックス)」のサイトからか、URL(fujiyu-kobe.peatix.com)を直接入力しても申し込める。購入者には後日、会場名を郵送で通知する。

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■各地で妨害、裁判闘争も

 「表現の不自由展」は天皇制、従軍慰安婦、沖縄の米軍基地、原発事故、憲法などを扱った作品を集め、公共施設で展示を拒まれた経緯も示して表現の自由のあり方を問う美術展だ。2015年に東京のギャラリーで初開催、15日間で約2700人が来場した。

 全国の注目を集めたのが19年8月開幕の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(あいトリ)の企画展「表現の不自由展・その後」。抗議電話が殺到して3日で中断。再開は約2カ月後だった。中止を叫んだ河村たかし名古屋市長が大村秀章愛知県知事に対するリコール(解職請求)運動を支援し、後に署名の偽造が発覚する事件にも発展した。

 この影響は神戸にも及び、現代美術の祭典「アート・プロジェクトKOBE2019 TRANS-」の関連行事で、あいトリの芸術監督、津田大介氏を招く予定のシンポジウムに抗議の電話などがあり、一部の神戸市議らが反対、登壇者の見直しを要請。主催者はシンポを中止した。

 この判断を問題視し、反原発や護憲、従軍慰安婦問題などに取り組む市民団体が集会を開くなどして抗議。この時の市民らが今回の神戸展の実行委員になった。

 各地で妨害が相次ぐ中、21年7月の「表現の不自由展かんさい」では、会場に「サリンまきます」とSNSに投稿した疑いで、兵庫県姫路市の男性が書類送検された。

 かんさい展では大阪府立の施設利用を巡って裁判闘争に。表現の自由を重視して使用を認める司法判断が最高裁で確定し、神戸展を含むその後の開催の後押しとなった。

 8月6、7日の京都展は計約720人が観覧。騒音を出しながら近隣を走る街宣車に対して京都府警が各日100人以上の警察官を配置し、警戒した。

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