宝塚歌劇星組公演「ディミトリ～曙光（しょこう）に散る、紫の花～」が１２日、兵庫県宝塚市栄町１の宝塚大劇場で開幕した。１３世紀、南コーカサス地方のジョージア王国を舞台に、運命に翻弄（ほんろう）されながらも愛を貫いて時代を駆け抜ける男女の物語。抜群のダンス力を誇るトップ礼真琴（れい・まこと）を筆頭に披露する、伝統舞踊ジョージアンダンスが新鮮だ。

　２０１７年にＮＨＫのオーディオドラマ（ラジオドラマ）で放送された並木陽さんの小説「斜陽の国のルスダン」を舞台化した。

　幼少期に人質としてジョージアに送られたルーム・セルジューク国の王子・ディミトリ（礼）は、ジョージアの王女、ルスダン（舞空瞳＝まいそら・ひとみ）の幼なじみとして育った。ディミトリはモンゴル軍に敗れたジョージアの前王ギオルギ（綺城＝あやき＝ひか理）の遺言に従い、女王として国を導くルスダンの夫となる。人質として育ったディミトリは国政に関わることができないため、ルスダンの良き理解者として生きることを決意。そんな２人の前に、亡国ホラズムの王ジャラルッディーン（瀬央＝せお＝ゆりあ）が立ちはだかる。ルスダンを、そしてジョージアを守るため立ち上がるディミトリだったが…。

　ジョージアンダンスは細かく足を動かし、ステップを刻む。「宝塚の男役が踊ったら絶対に格好良いはず」と脚本・演出の生田大和が採用したという。狙いは的中、動きと動きのつなぎ目のところで静止画のようにぴたっと決める見せどころ、ひざを床につき、滑るように移動する独特のステップに驚かされる。ジョージアの兵士がモンゴル兵と闘う場面をダンスを使って表現、一糸乱れぬ動きを見せた。さらにダイナミックな回転、ジャンプが組み合わされば…。ダンスに定評がある礼や月組から組替えとなった暁千星（あかつき・ちせい）なのだから、「もっともっと」と期待してしまうのだが。

　周囲に味方がなく、ルスダンのそばに控え、陰の存在に徹しつつ、何ができるのか必死に考えるディミトリ。「愛するがゆえに別れる」「どこででもいい、生きてさえいてくれたら」と互いに思い合う姿は宝塚らしい、悲劇のメロドラマとして、見る者の心を打つ。

　瀬央は敵対するジャラルッディーンの憎々しさと帝王としての貫禄を堂々と表現。ディミトリとルスダンの運命の歯車を狂わせてしまうのが暁のジョージア副宰相アヴァク。内に秘めた権力への執着をにじませ、芝居に厚みを持たせた。

　後半のショー「ＪＡＧＵＡＲ　ＢＥＡＴ－ジャガービート」は、半人半獣のジャガー（礼）が、クリスタルバード（舞空）を追ってさまざまな世界に迷い込む。物語仕立ての構成と演出で展開する。

　礼がＴＨＥ　ＹＥＬＬＯＷ　ＭＯＮＫＥＹの「ＲＯＣＫ　ＳＴＡＲ」をノリノリで歌い、そこからロケットにつなげる流れの序盤で観客の心をぐっとつかむ。

　「ビート、ビート、ビート」と、一度聞いたらつい口ずさんでしまうテーマ曲のサビ、ロールプレイングゲームの世界を想起させるメロディー、エレキギターをかき鳴らすロック調…。全編通して「これでもか、これでもか」とたたみ込んでくる音楽と、きらびやかな舞台装置で息つく暇もない。

　礼は所狭しと舞台を駆け回り、伸びのある歌唱も披露、おどけた演技も見せる。舞空は、破顔一笑で、見る者すべてを幸せにする。瀬央の、登場するだけで場の空気を変える色気、暁はショーでもピルエット（回転）など、得意のダンスをぴたっと決め、華を添える。

　「もう、おなかいっぱい」。そんな感想が口からもれた。

　１２月１３日まで。２０２３年１月２日～２月１２日、東京宝塚劇場で上演。

（片岡達美）