文化

  • 印刷
体を大きく使いながら手話通訳を行うペン子さん(カクバリズム提供)
拡大
体を大きく使いながら手話通訳を行うペン子さん(カクバリズム提供)

 音楽ライブで、歌詞の手話通訳を取り入れるバンドが登場している。海外の音楽フェスではすでに一般的で、米国のヒップホップ界レジェンド・エミネムをはじめ、韓国のアイドルグループ「BTS」も導入している。日本で手話と言えば、首相の演説など、テレビ画面の片隅で、直立不動に手ぶりするのはよく見かけるが…。日本の音楽シーンではどんな状況なのか、探ってみた。(山脇未菜美)

 10月中旬、岡山県で行われた音楽フェスで8人組ソウルバンド「思い出野郎Aチーム」の演奏を聴いた。インディーレーベル「カクバリズム」に所属、一体感のあるギターやリズム隊に、ボーカル高橋一さんのハスキーボイスが特徴で、金管楽器が華を添える。

 そこに体いっぱいに手話をする女性がいた。表情もいきいきし、まるで手話もコーラスの一人のよう。コロナ禍で観客が声を出せない中、人気曲のサビでは観客が手話を覚えて踊り、会場のムードは最高潮になった。

 手話通訳を導入したのは昨年末。海外アーティストの多くがライブで取り入れているのをマネジャーが知り、提案したのがきっかけだ。日本では近年、演劇での導入が進むが、音楽分野では前例がほとんどない。つてを辿り、かつて別のロックバンドのライブで一度だけ通訳を行った手話通訳士・ペン子さんに依頼した。

 「手話への翻訳は、歌詞の意図や作者が思い浮かべる情景、歌詞の背景を知らないとできない。そこが大変なところ」とペン子さん。歌詞では、わざわざ説明しないニュアンスも含め、細かな解釈が必要という。

 例えば、「街路樹がコマ切れにする街のあかり」という歌詞。主人公が街路樹を下から見上げているのか、遠くから眺めているのか。視点の違いで、手話が変わるという。作詞担当の高橋さんとペン子さんは何度も解釈をすり合わせ、1曲の翻訳に約20日も掛かった。

 一方で、手話だからこその効果もあった。差別のない世界を歌う「フラットなフロア」のサビで繰り返す「フラットなフロア」という歌詞。「平らな床」と「差別のない踊りやすい場所」を意味する手話を交互にすることで、メッセージ性を高めることができた。

 リズムなどを感じることはできても、耳の聞こえない人が音楽を楽しむのにはまだまだハードルが高いのが現状。それでも取り入れるのは、手話が社会生活の中で自然な存在になってほしいとの思いからだ。「自分もそうだったように、現実には手話に触れる機会そのものがまだまだ少ない」と高橋さん。ギタリストやベーシスト、コーラスがいるように、手話通訳が当たり前になれば。そんな思いでライブ活動を続ける。

     ◇     ◇

■11日、神戸でステージ

 思い出野郎Aチームは11日、神戸市西区押部谷町の神戸ワイナリーで行われる「ブジウギ音楽祭2022」に出演。ほかにもスチャダラパー、七尾旅人などがステージを披露する。

文化
文化の最新
もっと見る
 

天気(9月16日)

  • 33℃
  • 27℃
  • 20%

  • 35℃
  • 23℃
  • 30%

  • 36℃
  • 26℃
  • 20%

  • 36℃
  • 25℃
  • 20%

お知らせ