将棋の内藤國雄九段（８３）＝兵庫県西宮市＝が、本紙で５５年間出題し続けてきた詰め将棋コーナーを今月末で引退する。「短い音楽をつくるように、駒と遊んでいる感じで」毎週１点ずつ生み出してきた作品は、３１日付の２７４６回目が最終回。「将棋を戦うよりも好き」と公言してはばからない詰め将棋への愛を内藤九段に聞いた。

■「難しくつくるほうが楽」

　小学６年ごろから将棋に関心を持ち始めた内藤九段は、３人の兄に相手にしてもらえず、１人で遊べる詰め将棋に夢中になった。珠算で鍛えた暗算力が読みに役立ったといい、図面を頭にたたきこんで、小学校の授業中に解くのが楽しみだった。

　「（指し将棋で）近所のおじさんを負かせると、てきめんに機嫌が悪くなる。奥さんにお茶がぬるいとか文句を言い出す。子どもながらに、それがつらくてね。その点、詰め将棋はひとりで王様を追いかけ回すだけだったから、楽しかった」

　同じころ、江戸時代の名人、伊藤看寿（１７１９～６０年）の「将棋図巧」を知り、驚嘆。解くだけでなく、作る楽しみも覚えたという。

　神戸・三宮で教室を開いていた藤内（ふじうち）金吾八段に弟子入りし、棋士としての素質を見いだされて１９５８年にプロ入り。神戸新聞の詰め将棋は、藤内八段の後を継いで６７年に始めた。

　「プロはプロを意識して詰め将棋を作るから、どうしても難しいのを出題してしまう。実際は易しくて楽しい作品、後味のある作品が最高なんですけど、難しいのをつくるほうが楽なんですよ。その迷いがありましたね」

　娘の恭子さんが「テレビを見ていても、昼寝をしていても、突然将棋盤に駒を並べ始めることがあった」と振り返る詰め将棋づくりは、頭の中で盤面を動かしながら創作し、完成したら実際に並べて確かめるスタイルだった。

■「会心の作」と思ったら桂馬が…

　「散歩しながらはもちろん、お酒を飲みながらでも作品を考えることができました。会心の作ができたと思って並べてみたら、桂馬を５枚使っていたこともありましたけどね」

　内藤九段は、指し将棋の世界でも人気を集めた。飛車角を縦横無尽に使う「空中戦法」を始めとする華麗な攻めは「自在流」と呼ばれ、タイトルを４回獲得。史上５人目となる通算１０００勝も達成した。しかし－。

　「プロになってからは、将棋はあまりおもしろいもんじゃないからね。勝負の世界は、目の前に負かせた相手がいて、やっつけたら収入を減らしてしまう。相手の家族の顔が浮かんできたりするから、あまり好きじゃない。その点、詰め将棋は勝負がつかず、別世界に入り込めますからね」

　棋士として活躍しながら「いつしか看寿のような立派な作品集を世に残したいと思うようになった」という内藤九段。「玉方実戦初形」「攻方実戦初形」や、４０年以上かけて作りあげた「ベン・ハー」などの自信作１００作品を収録した「図式百番」を２００５年に出版した。

　「作品をつくる代わりに大山（康晴十五世名人）－升田（幸三実力制第四代名人）戦の実戦譜を並べて勉強したほうが、収入は増やせたでしょう。詰め将棋に値段はつきませんが、よう考えてつくれたうれしさはあります」

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　来週３１日付碁将棋面では、インタビューの後半のほか、内藤九段のエッセーや、新年１月７日から詰め将棋を担当する谷川浩司十七世名人（６０）の意気込みなどを紹介します。また、神戸新聞ＮＥＸＴでは内藤九段のインタビュー動画を掲載しています。

【思い出の４題解答】

　（１）　２三金、同歩、２二金、同銀、２一馬、１三玉、１二金、同香、２二馬、同玉、３二金、１三玉、２二銀まで１３手詰め。１二金が妙手。

　（２）　１二銀、同玉、２三銀、同角、２一銀、同玉、３二銀、同角、同角成、１二玉、２三角まで１１手詰め。連続３枚の銀捨てがテーマ。

　（３）　４三桂、同竜、２二香成、４一玉、５三桂、同竜、３二成香、５一玉、６三桂、同竜、４二成香、六一玉、７三桂、７一玉、８一桂成、６一玉、６二歩、同竜、７一成桂、同玉、８一飛成まで２１手詰め。

　（４）　８二歩成、６一玉、６三香、同飛、７二と、５一玉、５三香、同飛、６二と、４一玉、４二香、３一玉、３三香、同飛、４一香成、同玉、５二と、３一玉、４二とまで１９手詰め。前題、本題はともに狙いは同じで、収束部分のみ、ややひねりを加えています。