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「102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方」
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「102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方」

 広島県尾道市の山あいの集落で1人暮らしをする石井哲代さんは102歳。中国新聞に連載が掲載され、テレビにも出演するなど、地元で大人気! おばあちゃん初めての本「102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方」の書評です。

     ◇     ◇

 喜ばしいはずの長生きが「リスク」と見なされる時代。でもこの人のマインドに触れると怖さが薄らぐ。与えられた人生の時間を、果敢に楽しみたいという気持ちにさせられる。

 広島県尾道市の山あいの集落で1人暮らしをする石井哲代さんは102歳。毎朝みそ汁を作り、畑でくわを振るい、ご近所とおしゃべりにふけり、夫の遺影に話しかけて…。今この瞬間をいとおしみ、全力で生きようとする姿は人生100年時代のモデルといえる。

 中国新聞社(広島市)の連載を書籍化。2人の記者が哲代おばあちゃんの元へ通い、日々の出来事を追いながら言葉を拾い集めた。日記風に一人語りで日常が描かれる。そこにあるのは「自立」というより、「自律」した暮らしである。

 老いるとできないことは増えるし、心がふさぐ日もある。ふいに顔をのぞかせる「弱気の虫」をいかに退治するか。「心の落ち込みは魔物です。早めに自分を助けてやらんといけんのです」。哲代おばあちゃんは自分を励ます名人でもあるのだ。

 心と体をしっかり動かし、「上等、上等」と自分を褒める。うれしいことがあると「わおわお」と大喜びする。「煩悩やねたみといった、しんどいことは手放すに限ります。その代わり、うれしいこと、楽しいことは存分に味わうの」

 子だくさんが当たり前の時代に、子どもを授かることができなかった。小学校の教員をしながら、農家の嫁として畑仕事にも励んだ。「思い悩む暇をつくらんように、その日その日を忙しく働くことばかりを考えとりました」。そんな葛藤の多い切ない日々を過ごしたからこそ、哲代おばあちゃんは自分に問い続ける。一度きりの人生をどう生き切るか-。

 終活にも積極的に取り組む。生きることの延長に死があると捉える。「人は死んだら終わりじゃない。みんなの心が覚えとりますから」。102歳が紡ぐ言葉は、老いへ向かう道の足元を照らしてくれる。前を向いて生きるための道しるべにもなる。

 評者=木ノ元陽子・中国新聞編集委員室長

 (文芸春秋・1540円)

【いしい・てつよ】1920年生まれ。元小学校教員。83歳で夫を見送ってからは1人暮らし。2020年、100歳になったとき、中国新聞が密着取材を始め、今も継続している。

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