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「金子さんが逮捕されなかったら、日本のプログラミング技術は今よりもっと進んでいたかも。そう思わずにはいられない」と話す松本優作監督=大阪市内
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「金子さんが逮捕されなかったら、日本のプログラミング技術は今よりもっと進んでいたかも。そう思わずにはいられない」と話す松本優作監督=大阪市内
映画の一場面((c)2023映画「Winny」製作委員会)
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映画の一場面((c)2023映画「Winny」製作委員会)

 200万人以上が利用したとされるファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」をめぐり、著作権法違反ほう助容疑で逮捕された開発者、金子勇さんとその弁護団が無罪を勝ち取るまでの7年を追った映画「Winny」が上映されている。「人間ドラマとして描き、金子さんの真意がどこにあるか示したかった」という松本優作監督(神戸市垂水区出身)に、製作の経緯や思いを聞いた。

 2002年、金子(東出昌大さん)は「Winny」の試用版をインターネットの掲示板「2ちゃんねる」で公開。データを直接やりとりし、ファイルを匿名で共有するソフトだったため映画やゲーム、音楽などの違法アップロードやダウンロードが続出。コンピューターウイルスに感染したパソコンから内部機密や個人情報が流出するケースも相次ぎ、愛媛県警から漏えいした捜査資料の中に、捜査費に絡む裏金づくりを証明する資料が見つかる。

 京都府警は04年、金子を逮捕するが、サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大さん)はこれを不当逮捕と考え、弁護団を立ち上げた。

 松本監督は事件の記録を徹底的に洗い直した。7年分の裁判の公判調書は積み上げると「床から天井に届くほど」だったが、約4年かけて読み込んだ。「調べれば調べるほど、『著作権侵害を広めるために開発した』という当時の報道は間違いで、金子さんがいかに著作権を守るか、真剣に考えていたことがわかった」という。

 参考にしようと、さまざまな裁判を傍聴した。自分にとって都合の悪いことを述べる際、被告人の体は大きく揺れる。弁護士や検察官の目線の行方や口調をチェック。傍聴席にも目をやり、被害者側の親族だろうか、加害者の関係者か…と想像を巡らせた。「この経験が演出に大いに役立った」と松本監督は振り返る。

 脚本を基に壇弁護士ら本人に模擬裁判をしてもらい、「不自然なせりふや言い回しがないか、確かめてもらった」。余計なニュアンスが混ざらないよう、基本、標準語で質問するが、「ここぞという質問だけ関西弁にする」などのテクニックも伝授され、「うそのない法廷シーンが再現できた」と胸を張る。

 東出さんは役作りに没頭するタイプで、金子さんになりきろうと18キロも体重を増やした。撮影現場を訪れた金子さんの姉が東出を見て、「勇がいる」と涙を流したそう。一方の三浦さんは作品全体を見渡しながら、求められる演技をする。「ベストコンビだった」と満足げだ。

 逮捕によって「悪人」のレッテルを貼られ、最高裁での無罪はあまり報道されないまま13年、金子さんは病気で急逝する。「よりよい未来のため、純粋に技術の発展を願い、システムの修正・改良を重ねていた。じくじたる思いがあったと思う」と松本監督。フィクションだからこそ、そうした金子さんの内面を想像し、演出した。

 「イギリスのケン・ローチやベルギーのダルデンヌ兄弟が好き」と、社会派監督の名前を挙げる。自身もこれまで、社会的問題を題材にしてきた。枠から一度外れると許容されず、生きづらい現代を、「自分なりの視点で映像に切り取っていきたい」と語る。

 OSシネマズ神戸ハーバーランドほかで上映中。

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