王位戦、女流王位戦（いずれも神戸新聞社主催）のタイトルホルダーによる毎年恒例の「王位・女流王位記念対局」は、昨年に続き藤井聡太王位（２０）と里見香奈女流王位（３１）による対戦となりました。藤井王位は「お～いお茶杯第６３期王位戦７番勝負」で豊島将之九段（３２）＝兵庫県尼崎市＝を４勝１敗で破り３連覇を果たしました。里見女流王位は、第３３期女流王位戦５番勝負で西山朋佳女流二冠（２７）の挑戦を３勝１敗で退け４連覇。通算８期目の女流王位獲得となりました。各棋戦で活躍する両者の対局は、里見女流王位の中飛車に、藤井王位が急戦で対応する対抗形になりました。

　２０２２年で最も活躍した棋士と女流棋士が顔をそろえた。

　昨年、藤井聡太王位は五つのタイトル戦に登場し、すべて勝利。さらにタイトルを増やそうとしている。

　里見香奈女流王位は八つの女流タイトル戦すべてを戦い、女流六冠を達成。公式戦では棋王戦で本戦入りを決めた。棋士編入試験挑戦も記憶に新しい。

　多忙な両者の日程調整が難しく、通常なら新年の紙面に掲載される「王位・女流王位記念対局」は、年明けにずれ込んだ。藤井と里見が、記念対局で顔を合わせるのはこれで３度目。公式戦ではないが、両者とも意識は、ひたすら盤上にあった。

　藤井が「里見女流王位は、先手中飛車を得意にされているので、この展開が一番可能性は高いと思ってました」と話すように、戦型は、中飛車対居飛車急戦となった。

■積極的に動くが

　まず局面を動かしたのは里見。■４五歩～■６五銀と積極策をみせた。

　藤井は□５六歩を拠点にして、押さえ込みを図る。

　続いて先手は、角交換から■６三角と打ち込み、■７四角成と馬をつくった。後手陣にプレッシャーをかけながら、主導権を奪おうとしている。

　藤井は「先手の馬に攻め込まれないように」と、慎重な駒組みを意識。□５五銀と手厚く構えた。

　次の■４七銀打が疑問。ここまで攻めをみせていた里見だったが、やや消極的な手となってしまった。

　藤井は「■４七銀打は、■６六銀の方が良かったのでは。□同銀■同歩に、もう一度□５五銀と打ちます。以下■６五歩と突いて□６六角■６四歩□５七歩成■６三歩成。こちらも急所にと金を作ることができますが、先手の６三にできたと金も強力で、形勢は難しい」と振り返った。

　里見もこの意見に同意しており「□５五銀と打たれた次に、具体的な良い手を見つけられなかった。そこが実力」と反省していた。

　やや指しやすそうな局面を迎えた藤井。第１図からどうやって手をつくっていくのだろうか。

■落ち着いた好手

　藤井が盤側にあるチェスクロックを、鋭くにらんでいた。本局は、王位１０分、女流王位６０分で使い切れば一分将棋という変則の持ち時間のため、藤井は時間も気にしなければならない。

　藤井は□８八角の考慮中に、一分将棋となった。この角打ちは、桂香を取る手を見せ、先手の攻めを催促したものである。

　里見は■９八香とかわしたが、ここでは■４六歩と打ってみたかった。□同銀直は、■同銀□同銀に■６四馬が飛車銀両取り。そのため□５四銀と引かざるを得ない。そこで先手は■５六銀と出るか、■７八金□９九角成■７七桂と決めてから■５六銀と出るか。いくつかの攻め筋が考えられるところだった。

　■９八香にじっと□７三歩と馬を追ったのが好手。■７五馬と退却した形はいかにも窮屈だ。

　「□７三歩と打たれ指しづらい」と里見も振り返っていた。

　藤井は「後手は馬をつくって、じっくり活用できれば、攻め合いは後手がよい」と考えている。形勢は藤井に傾いてきた。

■猛烈な攻め

　■５四歩の垂らしに□７四香と先手の馬に香を当てた。この馬さえいなくなれば、後手は８七にある馬を活用することができる。

　このままでは、じりじりとやられてしまうと考えた先手は、■８九飛から■８七飛と大駒交換を挑み、猛烈に攻めていった。

　■７一角は飛車金両取り。厳しい一着に見えるが、第２図で藤井はどのような方針を選ぶのか。

　飛車金両取りに構わず□７七とから□６八と右。これが早い攻めで、決め手となった。「受けていても、玉が堅くなるわけではありません。攻め合いにいって自玉の厚みを生かしたい」と藤井。

　先手は■８二角成と、飛車を取りながら馬をつくるも、８五にある馬が活用できず、攻めが遠い。

　□２五桂を見て、里見投了。投了図以下、後手から□３七桂右成■同桂□同銀成■同銀□同桂成■同玉□２五桂■２八玉□３七銀■３九玉□４八と、以下の詰みがある。

　平手戦。女流王位の先手番。持ち時間は王位１０分、女流王位が１時間。使い切ると１手６０秒の秒読み。