神戸を代表する地場産業、ケミカルシューズ。地域内の分業を軸に長い歴史を刻んできた＝２０２０年、神戸市長田区
神戸を代表する地場産業、ケミカルシューズ。地域内の分業を軸に長い歴史を刻んできた＝２０２０年、神戸市長田区

　今回は番外編として司馬遼太郎の紀行文学の名編「街道をゆく」の「神戸散歩」を取り上げる。小説や紀行、エッセーなどジャンルを超えて司馬作品に通底するのは、作家自身が語り手として前面に出るスタイルだ。人物、地形、気候、交通などを語るとき、登場人物との会話を配しながら眼前の風景に歴史の古層を重ねていく。風土に堆積する人間の営みが作家のまなざしや史観を通じて立ち上がる。そこに物語が生まれる。